路地の奥深くに入るにつれて、世界の色はくすみ始めた。灰色なのではない。色は、以前よりも遥
かに多く使われているのだが、何故か覇気がない。喧騒が周囲を包んではいるものの、その声も空に
等しい。何処か病んだ明るさが、この世界を闇に閉ざさずに、くすんだままにしている。

「何処へ行ったんだ?」

 ハインケルは、刹那的で享楽的な雑踏の中を見回す。騒めきの中に危険を孕んだその場所には、ド
ライの冷め切った姿は見えない。
 ドライと同じ人形はいる。それらは確かに、ドライほど精巧ではないが、端正な顔立ちと理想的な
曲線を持っている。しかし、それらは決して趣味がいいと言えるような代物ではない。
 セクサロイド。
 普通の人形には不要な機能――つまり性交機能をもつ人形だ。
 そんな物が横行する場所というのは、何処に行ってもあるらしい。極寒に閉ざされたエリアにもあ
ったぐらいなのだから。きっと夜になれば、派手な色と、それに見合う嬌声が辺りを染め上げるのだ
ろう。それでも、世界はくすんだままなのだろうけれど。
 嬌声を夜まで耐えている雑踏の中で、ハインケルは突然立ち止まった。
 剥がれかけたような色の洪水の、ほんの一部分が、人の形に白く突き抜けていたのだ。

「ドライ!」

 澱んだ空気の中、潔癖なまでの白さを保つ人形は、淀みなく規則的な足取りでハインケルの元へ歩
み寄っている。その眼は揺らぐ事無くハインケルを見ており、その白い身体はこの世界では映える。
 自分の、きっかり六十センチ手前で立ち止まった人形を、ハインケルは見下ろす。

「ドライ、人形は?」

 破壊してしまったのだろうか。しかし、何故かそういった感じがしない。何故だ、と内心で首を傾
げ、その数秒後に硝煙の臭いがしないからだと気づいた時には、ドライが答えを言っていた。

「人形は現在も逃亡中だ。この通りの右側を走る線路の」 

 ほっそりとした手が持ち上がり、薄汚れたビルの向こう側にあるらしい線路をセンサに捉えながら
指差し、彼は続ける。

「その上を走る橋の上にいる。」

 ゆらりと腕が下り、視覚センサに今度はハインケルを入れる。

「博士への連絡はどうした?」
「ミヤビに任せた。」

 君を一人にしておくと師匠に怒られるからな、と言ってから、ハインケルはドライの薄氷色の眼を
覗き込む。奥で 瞬く光は、今は落ち着いている。僅かな時間ではあるが行動を共にしてきたハイン
ケルにも、この事態で演算をしていないという事が何を意味するのか、大体の察しがつく。
 これからどうするべきか答えが出ている証拠だ。
 だから、ハインケルは訊いてみた。

「………それで、今からどうするんだ?」

 ドライの眼の光は揺るがない。

「銃はまだ所持している。銃弾は三発残っていると推測される。発砲の恐れがある以上、放置してお
くわけにはいかない。」

 ドライは変わらぬ機械音声で淡々と告げる。
 
「橋の上にいる間に始末する。橋の両側から挟み撃ちにする。」





 かつて、この国の情報拠点であったトキオ・ドームには、蜘蛛の巣のように道路や線路が張り巡ら
されていた。そして、今はもう使われていないが、地下鉄がそのまま残されている。大洪水の後、一
時的に地下鉄と地上線が繋がった事もあったが、それも今は廃止されている。ただ、切り替えポイン
トなどは今でも残されているらしく、線路を統括し、制御している中央コントロール・センターには
切り替えポイントの制御装置も残されている。そして現在、利用可能な線路は地上線だけである。そ
れでもかなりの数の線路が運行されている。
 数十本もの線路が並べられ、その先で絡み合い、そして別れている。その上にはこの町と同じ、く
すんだ色合いの列車が並べられている。その種類は様々で、車両の数もばらばらだ。統一性がない、
と言ってしまえばそれまでだ。   
 ひたすら長く、数の多い線路を見下ろす橋の上で、ライミイは掠れた声でノスタルジックな歌を口
ずさんでいた。その歌の歌詞が、どういう意味を持っているのか彼女は知らないし、また知る術を持
たなかった。彼女は電子の網の中から拾い上げたプログラムを分析し、それを音声機能に伝えて音を
出しているにすぎないのだ。口元に子供の警戒心を和らげるような笑さえ浮かべているが、それも彼
女の行動支援プログラムに書き込まれたデータを行動に移しているだけにすぎない。
 そのはずだった。さっきまでは。
 先程のファースト・フード店で子供の相手をしていた自分と、線路を臨みながら歌を歌う自分とで
は、明らかに何かが違った。
 何が?
 居る場所が、眼にしている風景が、聞こえる音が、歌う歌が。
 そしておそらく、何よりも『自分』という概念が。
 突然、中枢演算機構に流れ込み、書き込まれたプログラム。それは間違いなく、機械と生体を分か
つ何かを取り払うものだった。
 くすんだ町に、ライミイの声が重なる。
 ライミイは、自分一人で歌えるようになっていたのだ。
 誰の望みではなく――主人である少女にせがまれてではなく――間違いなく、自分自身でそれを選
んでいた。
 意味のない声は、今や完全なる意志を持っていた。人が猿から進化した過程にあるミッシング・リ
ング。しかし、それよりも謎に包まれたミッシング・リングを、彼女は自分の中に書き込まれたのだ。
 ―――物質と生体の間にある壁。
 彼女は、それを飛び越えた。
 だから、彼女は自分で動き、自分で歌を選び、自分の為だけに歌うのだ。
 不意に、かつり、と硬質な音がした。
 彼女は歌うのを止め、緩やかに振り返った。
 人の眼に似せて作られた光学センサが、白い姿を捉えた。
 瞳に捉えたほっそりとした姿は美しかったが、もし彼女が赤外線センサを内蔵していたならば、目
の前にいる存在が自分と同じ存在である事が解かっただろう。しかし所詮彼女は、介護用人形以下で
も以上でもなく、そんな物は持ち合わせいていなかった。
 それでも相手に破壊意志があると認識したのだろうか、手の中で弄んでいた銃を掲げた。最補充し
ていなくても弾はまだ三発残っている。硬質な足音と共に歩み寄りながら銃を掲げる白い人形に、そ
の残る三発の銃弾を全て撃ち込んだ。だが、向かい来る三発の死神を、彼――ドライは避けようとも
しなかった。
 皮下装甲された白い身体にぶつかり、鉛色の死神は火花を散らした。その衝撃はドライにとっては
微細な物だったが、それでも彼は僅かに立ち竦んだ。その空隙を突いて、ライミイの足がドライに向
かって叩きつけられる。しかし、その攻撃はドライには届かなかった。ドライの身体に攻撃意志を絡
めた脚が当たる直前に、ライミイの身体は薙ぎ払われている。凄まじい勢いで地面に叩きつけられる。
 橋の上には、いつの間にかライミイを薙ぎ倒した鉄棒を持ったハインケルが、すっくと立っていた。
 だが、ライミイがその姿を完全に認識できたかどうかは甚だ怪しい。その姿を知覚する前に、凄ま
じい銃声が周囲を覆い尽くしたからだ。
 雨のような銃弾を辛うじて避けたものの、今度は嵐にも似た斬撃が襲ってくる。
 追い詰められる。
 しかし、残撃も銃声も飲み込むほどの轟音が、橋の下に差し掛かった。その瞬間、ライミイは身体
を宙に舞わせた。そして軽やかに下へ落ちる。そして、硬い音を立てて駆け抜ける列車の屋根に降り
立つ。
 遠ざかるその姿を見て、ハインケルは舌打ちした。
 ドライとの打ち合わせ通り、挟み撃ちにして追い詰めたまでは良かった。しかし、まさか列車が通
り、それに乗って逃げてしまうとは。さすがのドライも時刻表まではダウンロードしていなかったの
だろうか。
 今は、がたがたと音を立てて通り過ぎる列車を、歯噛みして見送るしかない………わけではなかっ
た。
 ハインケルは、例え彼女の所持している銃が全弾撃ちつくしていたとしても、このまま黙って逃が
してしまうほどお人好しではない。ドライも標的を諦めるつもりはないらしい。
 この時、ハインケルとドライの間に、次の行動に対しての暗黙の了解が交わされた。
 その考え至り、了解を交わし、行動に移すまでに、おそらく一秒と経っていないだろう。
 ハインケルとドライの脚は橋の手摺を蹴り、今まさに橋の下を駆け抜けようとしている列車に飛び
乗ったのだ。着地した瞬間、鉄板がへこむような、そんな音がした。
 彼らが着地したのは、列車の、かなり後部のほうだった。人形は機関室の辺りに着地したらしい。
 戦闘領域に選ばれたのは、貨物列車の屋根の上だった。そして、状況は明らかにライミイのほうが
有利だった。ライミイとハインケル達との間には、百を超える貨車が連なっているのだ。その状況を
打開せねば、戦闘開始の合図すら鳴りそうにない。そして、状況を打開する方法は、生憎、たった一
つしかなかった。
 ハインケルとドライは、無言のまま、機関室まで連なる貨車の上を進んでいった。時折、連結の為
に貨車と貨車の間に出来た隙間を、飛び越えながら。
 何とも危険で、効率が悪い事この上ないが、それしか機関室へ行く手段はない。普通の、人間を運
ぶ列車であったなら中を通っていくのだが、なにぶん、貨物列車は一つ一つの貨車が独立している。
従って、屋根の上を進むしかない。
 幸いにして、人形が逃げる恐れは少ない。
 ライミイは養護用人形だ。このスピードで走る列車から飛び降りて無事でいられるほど、その外殻
は強くないだろう。
 ハインケルは前を見た。機関室までは縮まったとは言え、かなりの距離がある。あと幾つあるのか、
と数えようとして、それがあまりにも不毛な行為である事に気づき、止める。そしてドライは、その
ハインケルの考えを呼んだかのように短く言った。
「貨車はあと四十三台ある。」
 言って、あと四十三台の貨車を四十二台に減らす。溜息を吐いて、ハインケルも同じく四十二台に
減らす。
 その時、がくん、と列車全体が揺れた。
 何、と思う暇もなく、周りの景色の流れ去る速度が速くなる。そして唐突に、一番前にある貨車―
―機関室の屋根が剥がれた。剥がれた屋根は、上昇するスピードから発生する風に煽られ、紙屑のよ
うに飛んできた。ハインケルとドライの目の前に。
 唖然としながらも、ハインケルが居合いで、その鉄板を切り裂いたのは、さすがと言うべきかもし
れない。左右に切り離された鉄板は、そのまま後ろへ遠ざかっていく。
 そして再び、機関室の開け放たれた屋根から何かが飛んできた。風に煽られ易い形をしているわけ
でもないのに、それなりの質量を備えていそうなそれは、鉄板と同じく、冗談のように飛ばされ、ハ
インケルの横を通り過ぎていった。赤い――紅い尾を引きながら。死臭を一瞬、強く垂れ流して。後
ろの貨車の屋根にぶつかり、弾んだ音を最後に、それはハインケルの五感から消え去った。

「運転手か………。」

 遥か後方で地面にぶつかり骨を粉々にしている音さえ、優秀なセンサで知覚して、ドライは呟いた。

「……と、いう事は、これを運転しているのは……。」
「殲滅対象である人形だ。」

 周りの景色が走馬灯のように駆け巡る。スピードは上がり続けている。貨車同士が激しくぶつかり
合う音は、いよいよ激しくなり、その揺れに、きぃきぃと車体の限界を訴える高い声を上げる。
 ハインケルでも立つ事が容易ではない屋根の上で、ドライは微動だにしない。
 
「ハインケル。」
 風の突き抜けていく音が聴覚を圧倒的に支配する中、ドライの抑揚のない機械音声が、その支配を
こじ開ける。

「この列車は、次の駅に停車する。」

 それがどうした。
 ハインケルはこの国の時刻表にまで精通していない。ドライも、この列車が来る事を予期していな
かったはずだ。いや、知っていたのか。ただ、人形が予定外の行動――列車の上に飛び乗って逃げる
――に出ただけか。そうでなくては、この列車の停車駅など知っているはずがない。

「その駅は終着駅だ。この列車はそのまま車庫に入れられる。中央コントロール・センターでそのよ
うに設定されているはずだ。」

 言いながら、ドライは銃を手にしている。
 ハインケルも、ドライの言わんとしている事を飲み込む。

「このまま行けば、車庫に激突………か。」

 しかし、何故、銃を抜く必要がある。此処から人形を撃つつもりか。

「どうするつもりだ?」

 ドライの銃に視線を固定しながら尋ねる。
 普通なら、駅に着くまでに機関室に辿り着き、人形を破壊し、速度を落とすべきなのだろう。しか
し、間に合わなければ、意味がない。それ以上に、人形がブレーキを破壊していないと、どうして言
い切れる。

「この先に切り替えポイントがある。」

 ドライは銃を掲げた。銃口は機関室を少々外れている。
 
「今は使用されていない地下鉄への線路に切り替える為のポイントだ。」
「地下鉄に列車を入れるつもりか?」

 しかし、いくら使用されていないと言っても、それは中央コントロール・センターで制御されてい
る。

「………ドライ、まさか。」

 ハインケルは、ドライの掲げる銃の意味が、今度こそ飲み込めた。

「外部から装置に圧力を加え、切り替える。」

 やはりその為か。
 そうこうしているうちに、走馬灯の中で途切れる事無く走るレールの上に、切り替えポイントが見
えてきた。線路はそこで大きく二つに分かれている。

「何処かに掴まっている事を推奨する。」

 ドライの瞳に蒼い輝きが瞬いている。装置までの距離や射程を計算しているのだろう。そして、銃
を掲げる手は真直ぐに装置に狙いを定めている。しかし、少しずつだが補正しているのだろう。
 そしてドライの腕が完全に止まった。
 切り替え装置が確認できる。
 耳音を通り過ぎる風鳴りを、遥かに凌ぐ轟音が切り替え装置目掛けて放たれた。放たれた銃弾より
も遅い速度で、列車は切り替えポイントに近付いている。轟音が鳴り止まぬうちに、装置の上で火花
が踊るのが、小さく確認できた。ドライは再び銃口を補正し、放つ。近付いた所為か、先程よりも火
花は大きい。
 近付く装置に対し、硝煙が立ち昇る暇すら与えず弾を再補充し、込められた銃弾全てを撃ち込む。
銃弾が当たる音が耳朶を打ち始めた。
 そして、ほぼ一発の銃声が長く尾を引いている時、一際大きく火花が弾けた。
 軋むような、錆び付いた金属同士が擦れ合うような耳障りな音が、レールを震えさせた。
 瞬間、列車がスピードを落とさず――むしろ上げて――カーブを描いた。ハインケルの身体は一瞬、
宙に浮きかけるが、ドライの忠告通り屋根に掴まっていたおかげで、吹き飛ばされずにすんだ。ドラ
イは当然の如く、微動だにしない。
 が、後方の車両が曲がり切れずに線路から脱輪を起こしたらしい。しかし、だからといって列車が
止まるはずもない。脱輪した車両を引きずって、列車は、長い間、誰も乗せる事のなかった線路の上
を、文字通り駆け抜ける。
 脱輪した車両が、激しく踊り狂っている。不愉快な音が火花と共に、線路上に飛び散った。その所
為か、取り合えず今のところは無事に線路を走っている車両も、揺れは酷くなる一方だ。しかし、乗
り物酔いなど起こしている暇などない。いや、そんなもの、こんな状況で起こす人間はいないだろう。 

「そのまま伏せていろ。」

 放置され続け、錆だけを自分の彩りとしている線路の先で、地下へと続く黒い穴が、大きく口を開
けていた。ドライの手が、ハインケルの頭を列車に押し付けた。ハインケルの為を思ってやった事な
のだろうが、かなり痛い。
 押さえつけられたままのハインケルの身体の上を、トンネルの上顎が通り過ぎた。顔を屋根に押し
当てられながらも、周囲の明度が一瞬の内に下がった事を感じた。
 その数秒後、後方で何かがぶつかる音がした。かなり大きな音だ。どうやら、後方で脱輪したまま
の車両が、トンネルの入口で引っかかったらしい。しかし、残念な事に、列車はそれさえも斬り捨て
て行くつもりらしい。
 置いていかれまいとする車両の訴えのような軋みは、最大級の声を発した。そして血痕のような火
花が、艶やかに闇の中に赤い点を落とす。その瞬間、脱輪した列車の連結部が、引き千切れた。何か
が折れるような音がして、強い振動が伝わってきた。それを最後に、悲鳴のような軋みは、途絶える。
 引き千切れた部分から、或いは、走り続ける車輪から、血のように火花を散らして列車は走り続け
る。闇の中では、その震音だけが、異様に鋭い感覚としてある。
 絶対的に、視界に入る光量が少ない。眼が、いつまで経っても闇に慣れない。屋根に掴まる手も、
押し当てた頬も、ただ揺れだけを感じている。
 光が感じられない。
 ドライは、この暗闇の中で何か見えているのだろうか。少しずつ、移動しているような気がする。
 ハインケルと違い――というか、いかなる人間とも違い――片手すら屋根に?まる事無く、銃巴か
ら空になった薬莢を排出している。からからと薬莢が屋根に当たる事がした。そしてそれは屋根の
上を転がっていき、屋根から落ちて、音が消える。代わりに撃鉄を上げる強い音が響いた。
 そして、ドライの感情の欠片もない、機械音声が。

「標的照準………発射。」

 銃声が、立て続けに続いたらしかった。
 らしかった、というのは、銃声が響き渡る前に列車が廃墟と化した駅に突っ込んだからだ。
 爆音が響き渡り、銃声はそれに飲み込まれた。その音と共に視界が広がり、広がった視界にまず飛
び込んできたのは、赤一色に染まった前方だった。その衝撃でハインケルの手は屋根から外れた。い
や、むしろその方が良いのだろう。そのまま屋根にへばり付いていたら爆撃に飲み込まれていただろ
う。
 屋根から引き剥がされたハインケルを、ドライは更に大きく突き飛ばし、列車から遠ざける。ハイ
ンケルもドライの腕を引き、列車の屋根を蹴った。爆炎に照らされて出来た、長く伸びた二つの影は
列車の屋根から消える。その残滓を掠めるように、炎はハインケルとドライのいた場所を飲み込んだ。
 布を引き摺る音がして、一人と一体は古びて埃まみれの駅のホームに放り出された。固い地面と服
が擦れ合い、摩擦で小さな煙を上げた。
 駅の柱にぶつかった列車から、大きな爆発音が届く。叩きつけられた身体を、赤い炎の影が、ちろ
ちろと舐める。
 赤く照らされているくせに、長い間放置されていた所為か、海底に沈んだ骨のように冷たい地面で、
ハインケルは呻く。意識が朦朧としているのは、先程の衝撃で、脳震盪でも起こしているのかもしれ
ない。
 朦朧とする中、鈍い痛みが身体を駆け巡る。
 全身が痛い。
 その痛みと朦朧とする意識の向こう側で、ハインケルはドライの変わらない声を聞いた。

「標的失探…。」