「おい、ディオ!だらだら走ってねぇで、てめぇも飛べよ!」

  御主人の言葉が鞭となって、ひぃひぃ言いながら走っている俺を打つ。
  しかも、命令の内容は、また無茶苦茶だ。御主人からの大概の要望には、昔取った杵柄でオディ
 オの力を使ってでも聞いてきたけど、今回ばかりはちょっと無理だ。俺は空なんて飛べませんって
 ば。だって馬だもん。

  けれど、今、俺と御主人が必死になって追いかけている馬は、ぱったぱったと空を飛んでいる。
 何故なら背中に翼なんてメルヘンなものをつけてやがるからだ。

  くそ、あのおっさん。オディオの力でペガサスに変わるなんて、頭ん中お花畑で埋め尽くされて
 んじゃねぇのか。




  Life of Horse 8





  皆さんお久しぶりです。O.ディオです。
 さて、もはや何の事だか意味不明な事になってますが、事の発端はいつもの事ながらサンダウン・
 キッドにあります。

  御主人に無体を働いたかと思えば無下に扱うヒゲに、御主人は今日も泣かされている。連日のサ
 ンダウンの我儘に振り回されて、最近とみにお肌の艶もなくなってきた。それに対して、サンダウ
 ンはつやつやとしてきた。このおっさん、もしかして若者の精気を吸い取って生きる化け物の一種
 なんじゃないだろか。
  でも、俺のとっちゃ、サンダウンが何者であろうとどうでも良い事だ。若者の精気を吸い取ろう
 が、若い女のシミーズを盗もうが、それが俺の御主人に迷惑をかけなけりゃ、俺も口はださない。
  んが、このおっさん、まるで当然の顔をして御主人に迷惑を掛けやがるからな!

  昨日だって、決闘を申し込んだ御主人に、指に刺が刺さってるから出来ないとかわけのわからね
 ぇ事を言って、御主人に刺を抜いて貰ってやがったからな!しかも刺を抜いて貰った後、そのまま
 御主人を押し倒して口には出来ないような事をして!挙句、一晩経った今日、御主人に朝ご飯を強
 請ってやがった。

  なんなんだ、このおっさん!
  てめぇ、賞金首だよな!
  んで、賞金稼ぎである御主人はあんたの敵だよな!
  その敵になんで刺抜いて貰って、一晩中口にできねぇような事をして、朝飯奢って貰ってんだ!
  しかも毎回毎回見る光景だから腹が立つ!

  で、本日、朝ご飯を奢って貰ったくせに、サンダウンのアホが、朝ご飯を残した。具合が悪いと
 かそんなんじゃない。間違いなく、その部分だけを切り取ったかのように残したから、単に嫌いだ
 ったとかだ。
  皿の片隅に綺麗に残されたそれを見て、流石に御主人もカチンときたらしい。そりゃそうだ。結
 局、決闘もできずじまいだしな。
  怒り狂った御主人は、荒野のど真ん中で怒鳴り声を上げ、感情が昂ぶりすぎたのか終いには声が
 上擦って涙交じりになった。

  くそ、あのおっさん!
  ヒゲの分際で何勝手に人の御主人泣かしてくれてんだ!

  しょんぼりする御主人の背中と、態度を改めないふてぶてしいサンダウンの対比に、遂に俺も堪
 忍袋の緒が切れた。
  いや、堪忍袋の緒が切れるのは何度目かわからないけれど、今度という今度は、本当に、切れた。
  一度、このおっさんにはお灸を据えてやったほうがいい!
  そう思った俺が、オディオの力を発揮する事を躊躇うはずがなかった。何せ、馬になった今でも、
 どこぞのおっさんの所為でオディオの力は溜まる一方だ。それを、溜めこむ原因となったおっさん
 に向けて放つ事に何の間違いがあろうか!いや、ない!

  そんなわけで、俺は溜まりに溜まった鬱憤、もといオディオの力を、ここぞとばかりにサンダウ
 ン目掛けて発射した。
  積もり積もった憎しみの力が俺から発せられた事には、流石にサンダウンも気付いて顔を顰めた
 が、気付いた時にはもう遅い。憎しみの力は千里を走るのだ。ガトリングの弾を避け切るおっさん
 でも、逃れる事は出来ん!
  ふはははは、と俺は笑いながら、渦巻く風と一緒にオディオの力をサンダウンにぶつけた。勿論、
 御主人は綺麗に避けて。

 「うわっ!?」

  といっても、風は御主人まで巻き込んだ。砂埃が辺り一面に巻き起こり、御主人が噎せる音が砂
 埃の中から聞こえる。
  そして、ようやく砂埃が治まり、御主人の噎せる音も止んだ時、そこに、サンダウンの姿はなか
 った。代わりにいたのは、白馬と言うには薄汚れて、金に輝くと言うには小汚い、一頭の馬がいた。
 砂を払い落すように、ぶるぶると首を振るその馬は、一緒に羽根もばたつかせる。
  それを見て、御主人の眼が点になった。
  勿論、俺も眼を点にした。
  ぎぎぎぎ、と音がしそうなくらいぎこちない動きで俺を振り返った御主人は、俺も呆気にとられ
 ているのを見て俺を問い詰める事は無意味であると思ったらしく、もう一度眼の前に現れた、砂色
 の馬――しかも背中には羽根が生えている――を見る。そして、その馬の頭に乗っかっている、小
 汚い帽子を。
  雄弁にその馬が何者かを語る帽子に、御主人は眼が釘付けになっている。俺も釘付けだ。いや、
 だって、まさかオディオの力がこんな形で発揮されるとは思わなかった。まあ確かに俺を人間にし
 たんだから、人間を馬にする事もあるのかもしれないけれど。

 「………キッド?」

  恐る恐る問い掛ける御主人。
  すると馬は、ふん、と鼻を鳴らし、

 『見ず知らずの人間に名を呼ばれる覚えはない。』

  と言った。
  馬語で。

  どうやら、この馬、人間だった時の記憶がないらしく、御主人を見ても何も思わないようだ。

 『しかし喉が渇いたな。水辺を探そう。』

  そう言って、ぱったぱったと翼を羽ばたかせるや、空に舞い上がる。その拍子に頭から帽子が落
 ちる。それを拾い上げて、呆気に取られていた御主人は我に返って慌てたように叫ぶ。

 「おい、何処に行くんだよ!おい!キッド!キッドー!」

  叫ぶ御主人を無視して、さっさと空を駆けて行く馬。
  その後ろ姿が点になるくらい離れた時、御主人ははっとして俺を見て、汚れた帽子を持ったまま
 俺の背中に乗る。

 「ディオ、あれを追いかけろ!」

  なんでさ。いいじゃん別に、あんなおっさん放っておけば。あのまま空を飛んでた方が、あのお
 っさんにとっても御主人にとっても幸せだって。

 「あんな変な格好のまま、放っておくわけにはいかねぇだろ!どうせお前が一枚噛んでんだろうか
  ら、さっさと走れ!」

  俺の心の声を聞いたわけでもないだろうに、御主人は俺の心の声に明確に返事を返してくる。し
 かも、俺が原因である事を見抜いているようだ。
  でも元を質せば、悪いのはあのおっさんであって、俺は因子であっても原因ではないと思うんだ
 けど。
  けれど、御主人の耳には俺の声など聞こえていない。

 「さっさと走れ!」

  あだっ!
  御主人の声と共に、御主人の蹴りが俺の腹にヒットする。なんとなく理不尽だと思うのだけれど、
 でも御主人なら良いか、と思っているあたり俺はマゾの気があるのかもしれない。
  そんな事を思いながら、俺は、サンダウンの馬と連なって走り始めた。

  そして、冒頭に戻る。

  馬、というか天馬になったサンダウンは、完全に頭の中も動物化しているらしく、御主人の制止
 の声など聞かずに、本能に従って水飲み場を探している。一度もこちらを振り返らないまま、森の
 中へと降り立つ姿を見て、俺達もその森の中に入り込んだ。
  が、遠くから見たらブロッコリーみたいな森でも、中に入ればジャングルのようだ。小汚い天馬
 の姿はなかなか見つからない。

 『くそ、あのヒゲ!何処に行きやがったんだ!』
 『……羽根が生えているから、あちこち飛び回っているのかもな。』

  悪態を吐く俺の後ろでは、サンダウンの馬が呟いている。
  ってか、てめぇの主人なんだから、てめぇがどうにかしろよ。
  そう言うと、奴は不服そうに鼻を鳴らす。
 
 『元はと言えば、お前の所為だろう。お前が何もしなければ、こんな事にはならなかった。』
 『何ぬかしてやがる。あのヒゲが御主人の作ったご飯を残さなけりゃ、俺だってこんな事しなかっ
  た。大体、ペガサスなんかメルヘンな物に変わったのは、俺の意志じゃなくて、あのおっさんの
  意志だ。』

  俺はオディオの力をぶつけただけだもんね。
  べーっと舌を出してやると、奴は呆れたように溜め息を吐いた。
  その溜め息に重なるように、御主人の溜め息をも聞こえてきた。御主人は、ジャケットを脱いで
 タイを緩めると、小さく呟く。

 「暑い…………。」

  確かに、あんたのその格好は暑いだろうよ。こんな森の中をうろつき回る格好でもねぇしな。だ
 から、あんなヒゲ放っておいて、帰ろう。

 「お、水辺だ。」

  が、御主人に俺の声は届かない。
  ってか、水辺なら、あのおっさんいるんじゃねぇの。喉乾いたとか言ってたし。
  そう思って辺りを見回すけれど、サンダウンの姿はない。もしかして、もう、どっか行っちまっ
 た後なんじゃ。
  すると、御主人が俺をじぃっと眺める。そして、ジャケットを俺の鞍に乗せる。ついでにシャツ
 のボタンを外して、それもさっさと脱いで俺の鞍に。

 「ちょっと此処で待ってろよ。」

  言いながらベルトを外して、ズボンも下着も脱いでいく。こうして、馬二頭を前にした賞金稼ぎ
 のストリップ・ショーが終わると、御主人は水の中に入っていく。
  ああ、水浴びをしたかったのね。暑いもんね。でもさ、

 『お前の主人は無防備すぎないか?』

  そう、それだ。
  御主人は誰もいないからって事で、全裸になって水浴びなんかしてるんだろうけど、もうちょっ
 とそのへん考えた方が良い。もしも此処で誰かに襲われたら、あんた一溜まりもないよ。まあ、俺
 が見張っとくから良いけどさ。
  大体、こんな所を、あのヒゲに見られでもしたら。

  …………あっ!

  そんな事を言っているうちに、薄汚れた天馬がのそのそと水辺に近寄ろうと、木の間を掻い潜っ
 ているのが見えた。まるで、御主人が水浴びするのを待っていたかのように。
  どう考えても疑わしさのある天馬の登場に、俺はいそいそと、そいつのもとへ行く。

 『てめぇ、待ちやがれ!』

  平然と、御主人が水浴びする水辺に行こうとする天馬、もといサンダウンを引き止める。
  俺の呼び掛けに、サンダウンは青い眼を細めて俺を胡散臭そうに見た。むしろ、胡散臭いのはて
  
 めぇだ。



 『何の用だ………。』
 『うるせぇ!今は俺の御主人が水浴び中なんだ!』
 『私は喉が渇いている。』
 『はん、水を呑みたけりゃ、後にしな!』
 『……………。』

  が、おっさんは俺の発言を無視して、のそのそと水辺に近寄ろうとする。
  待たんかい!

 『お前の主人の事など知った事ではない。』
 『その言葉が疑わしいから止めてんだろうが!』

  言葉通り、御主人の事がどうでも良いのなら俺も放っておく。でも、人間だった頃に色々無体な
 事をしている以上、それは信用できねぇってもんだ。

 『ふん………私が興味のある人間は、ギリシャの英雄のような人間だ。凡人には興味はない。』

  頭の中までペガサス化しているおっさんは、思考回路がギリシャ神話で埋め尽くされているらし
 く、どうやら英雄を背中に乗せて飛び回る事を夢見ているようだ。そしてそれ以外の人間には興味
 がないと豪語する。
  が、今、水辺にはギリシャの彫刻みたいな体躯を持っている賞金稼ぎが一人。
  しかも、間が悪い事に、御主人は俺達に背中を向けて項から尻の谷間までのラインを思いっきり
 見せつけている。

  つーか、サンダウン、あんた見たな。御主人の裸。思いっきり見たな。項とか、肩甲骨とか、尻
 とか、舐めるように。
  食い入るように見るんじゃねぇ!

 『………………。』

  黙りこんだ、天馬。だが、鼻息が荒い。
  俄然やる気になって水辺に急ごうとするサンダウンを、俺は尻尾を引っ張って必死に止める。

 『てめぇ、凡人には興味なかったんじゃねぇのか!』
 『あの身体の何処が凡人だ。あれこそ私の背に乗るに相応しい。』
 『身体か、てめぇの興味は身体だけかー!』
 『ふん、健全な身体に健全な魂は宿るものだ。』
 『何、まともっぽい事言って自分を正当化してんだ!』

  頭の中までペガサス化しているおっさんは、やはり俺の懸念の通り、煩悩に関しては人間だった
 時と変わらなかった。

 『大体、一番最初に御主人に声を掛けられた時は、無視した癖に!』
 『服を着ていたからだ。』
 『沈め!』

  このおっさん、御主人に、どこぞのダビデ像やヘラクレス像よろしく、全裸で馬に乗れってのか!
 こんなおっさん、天馬じゃなくて頓馬で十分だ。

 『ふおおおお!てめぇみたいな変態に、御主人は渡さねぇぞ!』
 『ふ………お前のような駄馬、あの男には相応しくない。』
 『うるせー!煩悩の塊の癖にー!』

  言い争う俺とサンダウンの横では、完全に現実逃避をしたサンダウンの馬が、もしゃもしゃと草
 を食べている。
  それを顎で指し示し、俺は怒鳴る。

 『そんなに性欲ありあまってんなら、てめぇの馬で発散させろよ、てめぇの馬で!めでたくあんた
  も馬になったんだから、それで万々歳だろうが!』
 『私を巻き込むな………。』
 『てめぇの主人だろうが!』

  俺の言葉に、他人事の顔をした奴の愛馬。それを俺は怒鳴り散らす。
  そんな俺達を見て、サンダウンは鼻を鳴らす。

 『異種婚など珍しくもないだろう。ペガサスと人間が交尾して何が悪い。』
 『てめぇ、御主人を殺す気か!ってか、やっぱりそういう目で見てやがったのか!』

  嘶き合う俺達の声は、水浴びをしていた御主人にも届いていたようだった。
  何かあったのかと水から上がってきた御主人は、服を俺に預けているので、当然の事ながら全裸
 で俺達の前に現れる。
  それはもう、モデルも真っ青な身体のラインを披露した御主人は、ようやく見つけた天馬、もと
 い頓馬、もといサンダウンに駆け寄った。
  全裸で。
  止めて御主人、これ以上その変態を喜ばせるのは。

 「キッド、てめぇ何処に言ってやがったんだ!捜したんだぞ!」
 『私はお前が現れるのをずっと待っていた。さあ、我が背に乗れ!』
 「どうやったら戻れるんだ、なあ?ずっとその格好のままなんて、許さねぇぞ。」
 『共にオリンポスの頂に行き、そこで暮らそう。』

  全然噛み合っていない二人の会話。
  サンダウンは御主人の言葉なんて聞く気はないようだし、御主人に馬語は分からない。分かれば、
 如何に御主人といえどサンダウンから逃げ出すだろう。
  というか、逃げて、今すぐに。

  俺は圧倒的な温度差がありながらも見つめ合う一人と一頭の間に割り込み、御主人をサンダウン
 から隠す。今の内に、服を着て下さい。
  が、それに不満の声を上げるのがサンダウンだ。

 『………何故、邪魔をする。』
 『けっ、馬が主人を守ろうとして何が悪いってんだ。』
 『残念ながら、その男は私のものだ。』
 『やかましいわ、勝手に決めてんじゃねぇ。大体、御主人はまだてめぇに乗るだなんて言ってねぇ
  ぞ。』

  そう言って俺の後ろにいる御主人を見やれば、御主人はサンダウンの帽子を膝の上に乗せて、寂
 しそうにしている。
  その前に、だからなんであんた服を着ないのさ!
  ヒゲの帽子なんて、今はどうでも良いから!

 「…………キッド。」

  そんな切なそうな声で名前を呼ばない!
  名前を呼ばれたおっさんは、嬉しそうに俺を押しのけて御主人に擦り寄る。その身体からは、勝
 ち誇ったようなオーラが溢れている。いや、別にあんたの背中に乗る為に名前を読んだわけじゃな
 いと思うんですけど。

 「キッド………どうやったら、あんたは元に戻れるんだ?」
 『………後でゆっくり可愛がってやるから、そんな声を出すな。』
 「俺は、馬のあんたよりも、人間のあんたの方が良い。」
 『安心しろ………何処に行っても、私がお前を包み込んでやろう。』

  此処まで話が噛み合っていないと、いっそ清々しい。
  そんな二人を見て、サンダウンの馬が、困ったな、と全然困っていなさそうな声で言う。

 『このままだと、私もお前も廃業だな。』
 『俺まで仲間にするんじゃねぇ!』
 『だが、あの男の愛馬は、このままだと私の主人がなりそうだが。』
 『なるか!』
 『まあ、このあたりは餌も豊富だから問題はないが。』

  そう言って、再びもしゃもしゃと草を食べ始める馬。
  こいつ……何処までマイペースなんだ……!

 「キッド………。」
 『煽るな………。』

  サンダウンが馬のままである事にしょんぼりしている御主人は、溜め息を吐いて、サンダウンの
 首筋を撫でたりしている。その行為に、サンダウンは興奮してきたらしい。御主人に制止の言葉を
 吐きながらも、自分はじりじりと御主人に近付いて、押し倒そうとしているようだ。
  ……もし本当に押し倒したら、俺は死を覚悟であのヒゲに戦いを挑もう。

 「……人間に戻りたくねぇのかよ。」

  サンダウンの鼻先を撫で、御主人は頬をサンダウンの顔に擦り寄せる。そして、顔をサンダウン
 の頬に埋めた。

  その瞬間。

 「わっ!」

  ほわん、と煙が立って、天馬の姿が消える。代わりにそこに立っていたのは、間違いなく人間の
 サンダウンだった。馬から人間に戻ったサンダウンは、何が起きたのか分からないと言うような表
 情で、視界を巡らせる。
  一方、サンダウンが望み通り人間に戻った御主人は、突然元に戻った賞金首に眼を瞬かせていた
 が、すぐにその身体に抱き付く。

 「キッドー!元に戻ったんだな!」
 「元に……?」

  何の事か分からないという様子のサンダウンは、しかし、代わりに自分の状況が、非常においし
 い状況である事を理解する。

 「………マッド。誘っているのか?」
 「へ?は?ああっ!?」

  そうです、現在、御主人は全裸でサンダウンに抱き付いてます。

  だから、服を着ろってあれほど言ったのに!

 「そうか………今日は随分と積極的だな。」
 「ち、違う!馬鹿!そこ、触るなぁ!」
 「安心しろ、ちゃんと、可愛がってやる………。」
 「だから違うって!ディオ、助けろ!」

  助けたいのはやまやまですが、既におっさんがあんたに絡みついてるので、蹴り飛ばしたらあん
 たも怪我します。

 「いやあああっ!」

  御主人の絶叫に耳を塞ぎ、俺はサンダウンの馬と一緒に現実逃避を決め込む。もっしゃもっしゃ
 と地面に広がるクローバーに顔を突っ込んでいると、そういえばと奴の馬が声をかけてきた。

 『随分と、メルヘンな解呪方法だったな。』

  口付けで元に戻るとは。
  その台詞に、俺はふんと鼻を鳴らした。