どうも、こんにちは、O.ディオです。
  さて、何から話そうかな。




  Life of Horse



  とりあえず、俺は今、馬だ。黒い毛並みの馬。
  まあ、毛の艶とかは自慢じゃないが、そのへんの下手な奴らよりはいいんじゃね?体格も悪くな
 いと思うよ、脚も長いし、走りだって速いほうだ。ついでに自分で言うのもなんだけど、頭だって
 悪くない。うん、一時期人間やってただけあって、そこらの馬と違って己の欲求に対する節度って
 もんはある。言っとくけど、人参なんかで釣ろうったってそうはいかねぇよ?
  まあ、今でこそ馬としちゃ立派にやってる俺だけど、昔は結構やんちゃでした。前の御主人達が、
 スー・シャイアンに壊滅させられた時には、もう、荒れて荒れて。御主人達の憎しみと意志を継い
 で、ただの馬を止めて、クレイジー・バンチなんて、ちょっと安っぽいスナック菓子みたいな名前
 のならず者達を集めたグループを作ってました。
  もちろん、リーダーは俺。
  でも、そんな反抗期真っ盛りみたいな時期はあっと言う間に終わりを告げた。
  反抗期なんて言ってる年齢でもないだろうと言わんばかりに、襲っていた街に罠で反撃されて手
 下を一気に失った挙句、お得意のガトリング銃の攻撃範囲を見切られて、寡黙でミルクを何倍飲ん
 でも腹を下さない賞金首と、その賞金首をストーカーなんじゃね?と思うくらい追っかけてる気障
 な賞金稼ぎに、コテンパンにやっつけられました。
  そして、憎しみを奪われて、再び馬に戻った俺。
  再就職の先は、さっき話した、ストーカー寸前の賞金稼ぎの愛馬。
  正直逃げようかとも思ったけど、耳を千切り飛ばすぎりぎりで銃弾を放った男に抵抗する術はな
 かった。俺はまだ、馬刺しにはなりたくない。で、今現在、俺はその賞金稼ぎ――マッド・ドッグ
 の愛馬を務めさせてもらっている。
  ま、正直な話、この就職先、最初こそ嫌だったけど、実は結構良い就職先だった。
  新しい御主人マッドは、見た目からして身なりに気を使う。帽子もジャケットもブーツも、ほん
 と馬から見ても、ああ気ぃ使ってんなぁって思うような代物だ。そんな御主人は、俺の身なりにも
 気を使ってくれる。毎日かかさずブラッシングしてくれるし、週一の割合で水浴びもさせてくれる。
 いやいや、人間だった時は風呂だってろくに入んなかったよ、俺。
  食事だってちゃんと食わせてくれるし。前の御主人達は、騎兵隊だったんだけどさ、戦争が始ま
 ったらもう、食事なんてなかなかとらせてくんねぇの。そん時に比べりゃ、今の御主人は新鮮な飼
 葉を食わせてくれる。ま、賞金稼ぎって職業もあって、規則正しくってわけにはいかねぇけど。
  でも、賞金首を仕留めた時は人参をたらふく食わせてくれるしな。
  うん、悪い奴じゃねぇよ。
  いやいや、食い物とかブラシに眼が眩んで言ってるわけじゃねぇよ?
  普通に考えてもいい奴だって。
  口は悪いし、人の神経逆撫でする事だって平気で言うけどさ。
  賞金稼ぎなんて、ならず者と紙一重な職業だよ?性質の悪い奴なんか、ならず者達を倒したんだ
 からいう事聞けって言って、そのまま町を牛耳っちゃうよ。正直、賞金稼ぎって、町にとっちゃ招
 かれざる客になり得るんだよ、お尋ね者と一緒で。
  でも、御主人は人気あるんだよな。賞金稼ぎだって、真っ当な奴らはいるんだけどね、御主人は
 そん中でも断トツで人気がある。
  これ、厩調べね。
  言っとくけど、馬の意見だからって馬鹿にすんなよ。馬ってのは結構人を見てるんだからな。嫌
 われもんを乗せてる馬の意見なんて聞いてみろ、どれだけ悲惨なものか。大体、誰が人気があって
 人気がないかなんて、宿とか酒場の厩のサービスでわかるんだよ。俺は少なくとも、御主人の愛馬
 になってから無体な事された事ねぇよ。むしろ他の馬より待遇はいいよ。他の馬に羨ましがられる
 くらいだよ、いいなぁって。たまに、御主人に憧れてんのかね、ガキが覗きに来て見世物みたいに
 なるけど。でも、それだって人気のパロメータみたいなもんだろ?
  まぁ、御主人のああいう、なんだかんだ言いつつ結局は弱い者の味方になるところ――弱い者の
 味方になってもそいつらを甘やかす事はない――が、人気に繋がるんだろうな。
  でも、それでも見てくれが醜男だったら冷めちまうんだろうけど、御主人はそれなりの容姿をし
 ている。身体もしっかり鍛えられてるし。けど、なんつーの、ゴツイって言うか、鍛えました!っ
 て身体付きじゃねぇんだよな。
  ほら、俺達馬は生きるのに必要な筋肉が無駄なく付いてるだろ?
  御主人もそんな感じ。
  無理やり筋肉を付けたんじゃなくて、そういうふうに生きてるからそういう筋肉が自然に付いた
 っていう感じ。ガッチガチのムッキムキだったら、ここまで人気でねぇんじゃね?って思うよ。俺
 の飼葉入れに、若い女が飼葉を足しに来るの見てると。
  ま、これで見かけ倒しって可能性もあるんだけれど。
  御主人は賞金稼ぎとしての腕前も悪くない。これは、俺自身、身を以て体験している。やんちゃ
 だった俺を止めたのはこの人だし。
  世間では『狙った獲物は逃がさない』って冠を持ってるみたいだし。実際、御主人の愛馬になっ
 て、一緒に賞金首を追い詰めるようになってから、その銃弾が的を外れた事はない。

  …………………。



  わかってるよ。
  一人カウントしてねぇよ。
  ってか、もうカウントする気にもならねぇよ。
  一番最初、俺が御主人を見ての第一印象。
  たぶん、もう話したと思う。

 『ストーカー』

  うん、御主人は今、思いっきり追いかけてる賞金首がいる。俺と初めて出会った時も、その賞金
 首を追いかけてる真っ最中だった。ってか、一緒にいた。
  5000ドルの賞金首サンダウン・キッド。
  それが、御主人が追いかけて追いかけて、未だ捕まえられていない賞金首の名前だ。
  で、御主人の愛馬になって数カ月。正直、俺はサンダウンの顔を見た回数を数えるのを止めてい
 る。
  いや、なんか、もう。

  ――――あんたら、このだだっぴろい荒野でどうやったらそんな何回も出会う事が出来るんだよ!

  って叫んでやりたい。
  月によって変動はあるけれど、平均したら週に11回は俺はサンダウンに会っている。下手すりゃ
 1日に4回くらい会った事もあるよ。
  何でだよ。
  どうしたらそんなに出会えるんだよ。
  あんたら、追われ追いかけの関係に見せかけて、実は逢引きなんじゃねぇの、これ?
  銃で撃ち合うやけに物騒な逢引きだけど。



  で。


    俺と御主人は本日もサンダウンと対峙している。
  昨日も会ったけど。
  むしろ、あんたら、あの決闘の後おんなじ宿に泊まったよな?
  俺、宿の厩でサンダウンの愛馬に会って挨拶したよ。
 『御主人が御迷惑をおかけします』って互いに!

 「よう、キッド。今度こそ決着を着けようぜ。」

  だから、昨日会ったばかりだって。
  そんで、あんた昨日負けたばっかりじゃん。
  御主人の事は嫌いじゃねぇけど、サンダウン絡みについてはいちいち突っ込みたくなる。
  ってか、サンダウンもいい加減、御主人をどうにかしようって思えよ。
  なんかあるだろ、なんか!
  あんた、いい歳なんだから、なんかいい考え出せよ、御主人を諦めさせるなんかいい方法を!
  ってか、御主人を諦めさせる気ねぇだろ、おっさん!

  大体、このおっさん、周りからは寡黙で渋いと思われているけど、俺も前はそう思っていたけど、
 それ以上にむっつりだ。サンダウンの愛馬とちょくちょく厩で話すようになってから、その事に気
 付いた。というかサンダウンの愛馬から色々聞いた。
  かつては凄腕の保安官でならず者達からの挑戦が絶えず自らの首に賞金を掛けて放浪するように
 なった――なんて、かっこ良さげな過去はどうでもいい。そんな過去話よりも、俺にとっちゃ聞き
 捨てならない台詞があった。

 『御主人はマッド・ドッグを気に入ってるぞ。』

  飼葉を肴に、サンダウンの愛馬はそう言った。

 『でなければ、あそこまで生かしておく事はせんだろう。』

  そもそも、と俺のように人間時代を持っているわけでもないのに、俺と同じくらい頭の良い馬は
 続けた。

 『いくら人の温もりを求めているとはいえ、自分の命を狙う賞金稼ぎ――しかも男の寝顔を覗きこ
  んだりはせんだろう。つまり――――。』

  ―――だぁぁぁあ!皆まで言うな!
  勘弁してくれ!
  あのおっさん、御主人に手を出そうってしてんだぜ!
  いや、俺も薄々感づいてたよ!
  おっさんが御主人の寝顔を見つめてたその場に俺いたし。
  でも、それは、あれじゃねぇのか!
  友情のなんとかっていう!
  違うのか!違うのかよ!………違うだろうな。
  眼を背けていた現実が突き付けられる瞬間というのは、こういう事を言うんだろう。
  それは、混乱した頭の中に、それでもしっかりと、『サンダウンはむっつり』と刻み込まれた瞬
 間だった。




  そして再びの銃声。
  いちいち反応する気にもならない。だって、御主人の持ってた銃がサンダウンの銃弾で撃ち飛ば
 されただけだし。昨日も見た光景だし。

 「………ふざけやがって!なんでいつも俺を殺らねぇ!」

  御主人、その台詞、そろそろ別の言葉に差し替えねぇ?別にいいんだけどさ、けど、何百回もお
 んなじような台詞ってのもどうよ?

 「待ちやがれ!」

  あんた、飽きないよね、ほんと。
  ってかさ、サンダウンも、ほんっとうっ!に微妙な表情の変化で、御主人とのやり取りを喜んで
 いるのを表すの、止めてくんない?
  そんな微妙な変化は御主人気付かねぇし。で、気付いた俺はどうしたらいいかわかんねぇから。
 むしろ、あんたと御主人の交際は認めねぇ側の馬だから、俺。
  ああ、サンダウンがこっちに銃向けてる。脳内妄想では御主人のハートを射止めてるんだろうな。
 まあ妄想はただだから、いいけどさ。

  それより。

  俺、だんだんサンダウンに手綱を撃ち抜かれる音に慣れてきて、御主人を振り落とさない勢いな
 んだけど、いいかな?