エリアス・アーサー。
 それが、宣教師の捜し人だった。年齢は宣教師と同じくらいで――ようするにマッド共同年代とい
う事だ――西部にしては珍しく森の生い茂る町の近くで、自警団の団長を務めているらしい。
 自警団の団長という割には随分と若いな、とマッドは思ったが、自分の事を鑑みるに、西部におい
て年齢というのは大したものじゃない、という結論に達した。

「で、どんな野郎なんだ。」
「え?」

 何故か、宣教師はもじもじし始めた。

「………とても綺麗な人だよ。」
「そうじゃねえよ。」

 曖昧すぎるわ。
 人探しをするのに、『綺麗な人』なんていう漠然とした情報だけでどうする。詳細な、外見上の特
性が欲しいのだ。主観的な意見はどうでも良い。
 そう言ってやると、ああ、と宣教師は納得したように言った。  

「ええと、それならはっきりと分かる特徴がある。彼の髪は銀色なんだ。」
「銀色。」
「あの、トゥーヘッドとか、そういう色合いよりも、もっと濃い銀色だ。」
「白髪じゃねぇのか。」
「違う。銀色だ。」
「それはそれは。」

 確かに、この上ない特徴だろう。
 銀髪、と言えば、先程も宣教師が述べたように、トゥーヘッド、またはプラチナブロンドが一般的
だ。ただしこちらは、正確に言えば白に近い金髪であり、子供の頃は銀色でも、大人になれば色が濃
くなって、より濃い目の金色、または茶色になってしまう事がほとんどだ。
 ある賞金首などは、やたらの色の薄い金髪だが、あれは荒野をうろついている事と、手入れの問題
だろう。

「でもって、あんたとその捜し人の関係は?」
「ええと………。」

 何故か口籠った。

「………友人、だと思う。」
「なんだよ、その自信なさげな感じは。」
「いや、改めて聞かれると、そう言えばどうなんだろな、と思って。そこまで長い付き合いをしてい
たわけでもないし。」

 子供の頃に、何度か会った事はあるのだという。尤も宣教師はイギリスに家があるので、ちょくち
ょくこちらに来ていた間だけ、顔を合わせる、程度でしかなかった。なので、どうやら捜し人のほう
は、子供の頃に宣教師に会った事など、きれいさっぱり忘れているらしい。
 それでも友人かもしれない、と言えたのは、五年前にも宣教師はこちらに布教目的で遣わされた事
がある。その時に、ぱったりと顔を会わせ――ただし前述したように、向こうはまるで覚えていなか
った――ぽつぽつと話をする仲になったのだという。

「まあ、自警団だから捕まえた犯人が告解とかしたがった時に、すぐに呼べる神父が欲しかったみた
いだ。」

 その後、宣教師は一度本国に戻り、でもって再びアメリカ大陸に戻ってきたわけだ。

「すぐに彼に会いに行ったんだけど、その時は何事もなかった。なのに、眼を離した隙に……。」

 行方不明になっていたというわけだ。

「いなくなる前に、おかしなことはなかったのか。」
「おかしなこと…………。」

 この宣教師はなんだかとても鈍そうだから、もしかしたら何かあっても気が付いていないかもしれ
ない。
 マッドはあまり期待をせずに問うたのだが、明らかに宣教師の眼が泳いだ。どうやら、その職業上
か、嘘が吐けない性格らしい。或いはこれが演技だとしたら、それはそれで大したものである。
 しばらくの間、宣教師は視線を虚空に彷徨わせていたが、マッドから逃れられないと知るや、実は、
と嘆息と共に吐き出した。

「これから行く、彼が自警団を務めている町中では口にしないでほしいんだが、彼はどうやら付き纏
いにあっていたらしい。」
「へえ、誰にだ。」
「女性に。」
「……………。」

 マッドは懐から葉巻を取り出し、火を点ける。そして、ぷかあ、と煙を吐いて、

「なあ、それって、物凄く野暮な話にならないか?」
「ち、違う。彼と彼女が付き合うとかいう話はない!そもそも、その女性はシスターだ!」
「……尼さんに迫られてんのか、その団長は。」
「だから、違うって………。」

 宣教師は、顔を赤くして、ごにょごにょと反論している。神父だから、つまりはそういった男女間
の事に疎いのだろう。神父の中には、神父になる前に妻帯している者もいるが、眼の前の宣教師はま
だ若い。妻を持ってもいないだろう。

「そうじゃなくて、彼は、彼女に嫌われているから。」

 宣教師の言葉に、マッドは眉を顰める。
 嫌われている。
 なるほど、人の怨恨というのは実に業深い。しかし、嫌いだから嫌がらせをする、ならともなく、
付き纏ったりするだろうか。するにしても、自分ではなく他人に頼んで付き纏って貰いそうなものだ
が。
 嫌う、という感情は、そうそう自ら手を出させようとはさせないものだ。
 憎しみや恨みなら、もっと直接的に動くのだろうが、嫌う、という表現はなんとも曖昧模糊として
いる。

「本当に、嫌われている、だけか?」

 マッドは葉巻を燻らせながら、宣教師を見つめる。宣教師は、何処かの賞金首と同じ色合いの眼で
此方を見つめ返した。

「……分からない。私には、彼女の心裡を読む事はできない。ただ、少なくとも、彼女は彼を、好い
てはいないだろう。」

 何があったのだ。
 マッドが問い返す前に、宣教師はマッドを制した。

「詳細は、町に着いてから話そう。或いは、君自身に見てもらったほうが良いかもしれない。君も、
私の口から聞いただけの話では、納得しないだろう?」

 勿論だ。宣教師を疑うわけではないが、話の裏取りはする。でなければ、マッドが賞金稼ぎとして
長らく王者に居座る事も出来なかっただろう。

「ならば後の話は、町に着いてから、だ。」

 ただし、町での振る舞いには気を付けるように、と忠告を受ける。

「あの町は、先住民族も暮らす場所だから。」