9.イチョウ並木






 数年前に流行っており未だその人気熱が燻り続けるドラマで、主人公とその恋人のクライマックス
 
 でふんだんに使用されていた並木道は、実はチビッコハウスからは歩いては行けないが、しかし車
 
 でなら数十分という場所にあった。

 
 その事をアキラが知ったのは、ミーハーな若者達が数多く訪れている事を話題とした情報番組を見
 
 ての事だった。
 

 しかし、アキラはそんな場所に興味はない。

 彼女がいるとかならおねだりされて連れていくとかそんな事も考えるだろうが、如何せん悲しいか
 
 なアキラには今現在――というか過去にも――お付き合いをしている女性というものがいなかった。

 従って、そんな『恋人同士のデートスポットにぴったり!』なんて字を見ても心踊りはしないのだ
 
 が。


 しかし、もう一人、心踊りはしないはずであった男は、わざわざタイ焼き屋を休みにしてハーレー
 
 をかっ飛ばしてその並木道に向かっている。
 

 その後部座席に、チビッコハウスのお姉さん的、且つアイドル的存在である、妙子を乗せて。


 アキラが、どれだけ妙子のパンツ云々言っていても、結局のところ彼女は既に別の男のもので、そ
 
 の事はアキラも重々承知している。だからパンツ云々は、思春期にありがちな性に対する興味の一
 
 環であり、別に妙子をどうこうしようなんて欠片も思ってはいないのだ。
 

 しかし、いつもストイックに男気を見せている男が、よりによってトレンディ・ドラマなんてミー
 
 ハーなものを知っており、その舞台をデート場所に選んだ――というよりもデートなんて概念があ
 
 ったのか――事が驚きである。

 
 『行くぞ』の一言と共に妙子にヘルメットを渡し、その手を有無を言わさずに引いていく様は、呆
 
 気にとられたが確かにカッコ良かったのだが。


 ――まだ、季節が早い気もするんだよな。


 銀杏の葉の色はまだ変わっておらず、ドラマのように木の葉が降りしきる状態ではないだろう。

 そこのところ、どうフォローするのだろうか。

 色々とシミュレーションしてみたが、アキラの浅い経験値ではフォローのしようがなかった。


 ――まあ、妙子がどうにかするだろ。


 テレビの中では、ミサワが観客の歓声に答えていた。