3.海辺の夕暮れ
「もしかして、あんた、初めてかよ。」
「…………ああ。」
「へぇ。俺は何回かあるぜ。」
「……………。」
「ガキの頃だけどな。」
「……………ほう。」
「………あんた、何、眉間に皺寄せてんだよ。」
「別に………。」
「別にって顔じゃねぇな、それ。なんだよ、嫌ならそう言えばいいじゃねぇか。こういうの、嫌い
な奴は本当に嫌いなんだよ。生理的に受け入れられないっていうか。」
「そうは言ってない…………。」
「いいや、顔が言ってる。こういう状況は受け入れられねぇってな。どんだけ口で否定したって、
身体が拒否してるじゃねぇか。ま、そりゃそうだ。いきなり自分の常識から遠くかけ離れた状態
になりゃ、誰だってそうなる。」
「だから、そうでは…………。」
「強がんなよ。あんたは、本気でこういうの、嫌いなんだよ。だから無理しなくていい。」
悪かったな、とだけ言い置いて何処かに行こうとするマッドを、サンダウンは引き止めようと慌
てて手を伸ばした。
しかしその瞬間、急に動いた所為か、目眩がした。
それと同時に、胃の底から湧き上がる吐き気。
夕日の強い日差しも相まって、頭の奥のほうでもやもやと不快感が渦巻いている。
思わずよろめいたサンダウンを、呆れたように見やってマッドは溜め息を吐いた。
「だから無理すんなって。あんた、船酔いする体質なんだよ。」
いつものように追いかけっこをして、その勢いで遊覧船に飛び乗ったのが数時間前。
遊覧船で決闘をするわけにもいかず、大人しくしていたマッドの隣で、見る見るうちに5000ドル
の賞金首が蒼褪めた。
「もう少しで港に着くから、それまで我慢しろよ。」
賞金首の背中をさすりながら賞金稼ぎは遠くに広がる海辺の町を見て、決闘はお預けだなと呟いた。