10.終わりのない恋だった





  闇の中、ゆっくりと地平から赤い帯を投げかけてくる火の球を見て、マッドは笑みを浮かべた。

  今日も、一日を迎える事が出来る。当然でありながらも、生死の縁を歩くような生き方をしてい
  
 る以上、それは歓喜に値する。

  しかし、マッドが持つその歓喜は、教会で祈りを捧げる人々が神に感謝を捧げるのとは違い、些
  
 かの敬虔さもなかった。



  ああ、そうだ、今日も、今日も、あの男を追いかける事が出来る。

  今にもこの荒野に溶け込みそうな、荒野そのものの色をした男。あの男を追いかける事が出来る
  
 という事実は、マッドにとってはこの上ない歓びだ。

  幾度となくしてきた銃の交歓が、また更新される。

  ずっとずっと繰り返してきた。どちらかがその心臓を撃ち抜かれるまで、延々と繰り返される応
  
 酬。そしてマッドはこれからもずっとずっと繰り返し続けるつもりだ。

 

  もしかして気付かれているのだろうか、実は少し狙点をずらしている事に。少し銃を瞬間を、そ
  
 の指より遅らせている事に。

  気付いているのかもしれないし、気付かれていないのかもしれない。気付いていて尚且つあの男
  
 のほうが、やっぱりその速度は速いのかもしれない。

  けれど、そんな事はどうでもいい。



  大切なのは、これから先もその遣り取りが続く事。

  マッドが続けるのは簡単だ。
 
  今まで通りに狙点をずらして、遅めに撃てばいいだけの話。

  ああ、でも、あいつは。

 

  いつかこの心臓を撃ち抜くだろうか。

  この関係に耐え切れずに。

  それとももっと別の方法で終わらせるだろうか。

  一人でマッドを置いて何処かに行ってしまうのだろうか。

 

  どうかどうかそれだけは、



  あいつに撃ち抜かれるのは、悪くない。その鉛玉は、きっと何よりも極上の甘さを伴っているだ
  
 ろうから。その瞬間、嬌声を上げるかもしれない。それくらい、あの男に与えられるものに、恋焦
 
 がれている。齎される死に、微笑むくらいに。

  けれど、置いて行かれる事だけは、どうか。その存在のいない世界なんて、もう考えられないか
  
 ら。いなかった世界の事が思いだせないくらい、世界は塗り替えられてしまっている。

  

  ずっとこうしていたいんだ。

  こっちを見て欲しいだとか、抱き締めて欲しいだなんて、身の程知らずの夢は抱かない。

  ただ、こうして、繰り返される遣り取りを繰り返したいだけなんだ。

  だから、どうか。



  置いて行くなら、どうか、終わらせてくれ。