10.駅前のコンビニ




 此処のコンビニに入るのは久しぶりかもしれない。

 アキラは最寄駅の近くにあるコンビニで、おにぎりを物色しながら思った。


 普段、アキラは移動にはハーレーを利用する。

 無法松がアキラの残してくれたものの一つで、アキラはそれを遠慮なく使用している。

 従って、電車を使用する事など最近ではほとんどなかった。

 しかし今日はハーレーの調子が悪く、仕方なく藤兵衛にメンテナンスを頼んだのだ。

 きつく、おかしな改造はするなと言い置いて。

 
 ハーレーがないアキラには、脚がない。

 何処に行くという事もできず、だったら家でゴロゴロと、と考えていたのだが、

 そこを妙子に掴まって、所謂『お使い』を頼まれた。

 二駅ほど行った場所にある井上さんの家にお礼の品を届けて欲しいというミッションだった。
 
 
 井上さんて誰、ってかお礼って何かあったのか?


 そんなアキラの台詞に妙子は、園長が車に轢かれそうになったところを助けて貰ったのよ、とだけ返した。

 その人って男?と思わず訊き掛けて止めたアキラは、自分で自分を偉いと思った。

 無法松と妙子の事を知っている身としては、そして無法松がいない今となっては妙子が誰に想いを寄せても

 問題ないと分かってはいても、なかなか了承できないものがある。
 
 別にアキラの了承なんぞ妙子にしてみれば知った事ではないのだろうけれど。


 そんなわけで、アキラはその井上さんとやらがどんな人間かを見極める為にも、お使いイベントを受けたので
 
 ある。

 ハーレーがないから面倒臭いなんて事を言っている場合ではない。

 風呂敷に包まれたお礼の品を片手に、てくてくと最寄駅までやってきた。

 そして電車の到着時間までまだ時間があるから、駅の近くにあるコンビニで時間つぶしをしているわけである。


 おにぎりの後にお茶を物色した後、ぼんやりと雑誌コーナーを眺めやる。

 普段、他のコンビニに行った時ならば、成人指定の雑誌にちらりと目を走らせるのだが、今日は家庭雑誌の開
 
 いてある場所で立ち止まった。

 成人指定の雑誌よりも遥かに落ち着いた色合いが満ちている場所に、ふんわりと柔らかい白が混ざってある。

 それは、ブライダル・フェアだとかそういったものを扱った雑誌だった。
 
 その中で、白い衣装に身を包んだ女性が、華やかな花束を持ち、微笑んでいる。

 
 もしも、と思う。

 もしも無法松が生きていたなら、いつかは彼もこんな雑誌に眼を向ける事があったのだろうか、と。

 それは、まだ嘆き哀しんでいる彼女の為のものだったのだろうか?

 そうであったなら、けれどそれならば一層、嘆きは深くなる。


 しかしまだ、自分達は彼女の隣に誰か他の男がいる事を考えられないだろうし、受け入れる事もできない。