1.風の強い日





 ばたばたばたばた。

 音を立てて、布が翻る。

 はためくのは真っ白いシャツと真っ黒なジャケット。

 そして茶色のポンチョ。

 それらの隙間から、青い空が覗いている。

 白い雲を幾つか浮かべた眩しい空とは対照的に、暗く静かな小屋の中で、はためく布切れ達を干し
 
 たサンダウンはそれらを見上げた。

 サンダウンの背後では、薄汚れたシーツに白い肌が埋もれている。



 出会ったのは今朝の事
 
 銃を抜き合ったのも今朝の事。

 黒光りする銃の向こう側に、持ち上がった口角を見たのはいつもの事。

 その時、天が割れるような稲光と共に、大粒の雨が降りかかってきた。
 
 唖然とする表情が、一気に雨に隠された。

 今にも白い針の向こうに溶けてしまいそうな身体と一緒に、近くにただあった小屋に駆け込んだ。

 その後の事は基本的には曖昧な部分が多い。

 小屋に到着した時に最初に言葉を発したのは、多分、マッドだ。

 それは軽い愚痴の混ざった言葉だっただろう。

 それから濡れた服を脱ぎ捨てて、その時ポンチョに包まれたサンダウンのほうが濡れた部分が少な
 
 かった事に気付いて、彼は眉根を寄せていた。

 それから、それから。

 押し倒した身体が雨が作り上げた闇の中で白く浮かび上がって、形の良い唇が震えるような息を吐
 
 いた事だとか。

 一瞬一瞬は鮮明だが、全てを繋ぎ合わせようとすれば、遠ざかってしまう。



 数時間前の事を思い出し、サンダウンは喉の奥が少し乾いたような気がした。

 すぐ後ろに未だ潤いを残した身体があるというのに、おかしな話だ。

 その身体には、サンダウンが残した痕が、いくつも浮き上がっているのに。

 けれど、離れただけで、また乾いた世界に放り出されたような気になってくる。


 ばたばたばたばた。

 喉が渇くのは、もしかしたら風が強いせいかもしれない。

 荒野は、吹き荒ぶ風一つでさえ乾いている。

 それに煽られる濡れた衣類は、きっともうすぐ乾いてしまうだろう。

 この空が曇っていても、これだけの風だったら洗濯物は乾いてしまう。

 しっとりと眠るマッドが次に眼を覚ました時には、不器用に干された衣服達は乾いているかもしれ
 
 ない。


 もし、乾いていなければ、マッドは怒るだろうか。

 怒るかもしれないし、怒らずに黙って葉巻に火を点けるだけかもしれない。

 
 いずれにしても。


 二人が一緒にいる時間が長くなるだけの話。