「っああああ!も、……あ!いや、っだ!」



 欲しいと囁くサンダウンの言葉に頬を染めたマッドの身体は、先程までとは打って変わって柔軟に
 
 サンダウンを受け入れた。触れるたびに力が抜け、溶けるような声を上げるマッドは、けれども普
 
 段よりも幾重にも重ねられる愛撫に逃げようと身を捩っている。快感が強すぎるのだろう。赤く染
 
 まった頬には、何本もの涙の跡が残り、今もまたその筋を増やしていく。



 首を打ち振るって限界を訴えるマッドの額に口付け、しかしサンダウンは愛撫を止めない。本当な
 
 らば受け入れられる為に作られた身体ではない。そんな事は、マッドを抱くたびにマッドが感じて
 
 いる苦痛の一部をサンダウンも感じているのだから、分かっている。だが、いつ誰が襲うとも知れ
 
 ない荒野で、ゆっくりと丹念に身体を開かせる事は、ひどく困難な事だった。荒野を駆けまわるな
 
 らず者達の気配を探りながら抱き合う行為は、いつだって性急に進めるしかない。



 それでも行為そのものを止める気には、到底なれるはずがなかった。誰よりも激しく凶暴な命を持
 
 つ男が、その身をどんな理由でかは知らないが、この腕の中に投げ出しているのに、手放せるはず
 
 がないのだ。そして今、サンダウンはマッドの本心を僅かなりとも暴いて、知ってしまった。



 この、驟雨の強固な檻に囲まれた小屋の中で。

 もう、何処にも、夾雑物は見当たらない。

 

 邪魔するものがいない檻の中で、サンダウンはマッドから苦痛を取り去る為の愛撫を執拗に繰り返
 
 した。感じすぎて泣きじゃくるマッドの額や頬に口付けながら、マッドの請いを無視する。 

  

「も、やぁ………!」

「まだ、だ………。」



 脚を大きく広げて何もかもを曝して鳴くマッドは、こちらがどうにかなってしまいそうなくらい煽
 
 情的だ。分厚いジャケットに覆われている為、日に焼けていない胸には、赤く色づいた二つの突起
 
 がつんと立っている。普段からは考えられもしない切ない声を上げて、黒い髪を床に散らして快感
 
 を必死になって逸らそうとする様子に、流石にサンダウンも声が僅かに上擦った。



 分かっているのか、この男は。自分がどれだけ悩ましい姿をしているのか。むろん、今のマッドに
 
 そんな事を計算している余裕などない事は分かりきっているが。睫毛に積もる涙一滴にも昂ぶって
 
 しまうくらい、今のマッドは、そそる姿をしている。その姿を見た事がある人間は恐らく自分だけ
 
 だと思うが、しかし。




 何処かに擦りつけたいのだと言うように腰を不規則に揺らす姿に、絶頂が近い事が分かる。それを
 
 はぐらかすように愛撫を止めると、マッドは自分で腰を動かして快楽を追おうとする。快楽に意識
 
 を奪われる姿に、サンダウンは僅かに暴いたマッドの本心をもっと引き摺り出してやりたくなった。

 喘ぐマッドに、快楽だけを求めているわけではないのだと、言わせてやりたい。

 

「どうして、欲しいんだ………?」

「ん、もぅ……は、やく……!」

「……………。」



 何度も繰り返されてきた請い。けれども、サンダウンが聞きたいのはそんな言葉ではない。快楽を
 
 与える人間ならば、誰でも良いのだと解釈できるような言葉が欲しいのではない。

 

 動かないサンダウンに、マッドは涙の膜が張った眼をうろたえたように向けた。あどけなく無防備
 
 な表情をするマッドに、今でしかその本心を引き摺りだす事は難しいと感じ、その耳朶を噛むよう
 
 に囁く。



「マッド………私は、お前が、欲しい………。」

「あっ………!」



 そっと内部をなぞると、その身体はぴくんと跳ねる。ひくひくと震える内腿を撫で、サンダウンは
 
 請い続けるマッドに強請る。サンダウンはもう、思う存分に本心を吐き出した。ならば、今度はマ
 
 ッドが話さねばならない。理性がその言葉の邪魔をするというのならば、徹底的に崩してやるから。



「お前は………?」

「………っあ、ああっ!」

 

 もっと快楽を与えて追い詰めて、マッドの中から答え以外の言葉を摘まみ取っていく。その口が、
 
 いらぬ計算をし尽くす事が出来ないように。
 


「マッド………答えろ。」

「ん………、あ!あぅぅ………。」

「マッド………。」

「は、う………、やっ、ああ!」

「欲しいんだ………。」

「やめっ………あ、う………!」

「お前は、どうなんだ…………?」



 マッドに考える暇も与えず、言葉と快楽を交互に落としていく。そんな中でもマッドは必死に瞳に
 
 理性を浮かべようと努力している。尤もそれは、サンダウンにすぐに摘み取られてしまうのだが。

 

 サンダウンも、今の状況で言葉を引き摺りだすのは卑怯だと思わぬでもない。しかし、それよりも、
 
 マッドからの言葉が欲しい。サンダウンにはマッドしかいないように、マッドにもサンダウンしか
 
 いないのだと。しがみついたいじらしい行動だけでは、もう、満足できない。マッドが思う以上に、
 
 サンダウンは浴深いのだ。



 響く淫猥な水音に、マッドは耐えられないと言うように首を激しく振る。焦らされ続けた彼の身体
 
 は、今にも蕩けてしまいそうなくらい濡れて、濃い色をしてサンダウンの指を咥える秘部からも、
 
 とろとろと液が零れている。身体は、これ以上ないくらいにサンダウンを求めている。そんなマッ
 
 ドの心が、快楽に引き摺られないはずがない。正直な身体に後押しされるように、マッドは喘ぎ、
 
 言葉を途切れさせながらも必死で叫んだ。



「ひっ………キッド………っ!も、欲し………っ!」



 首に回された腕が、一段と強く力が込められた。そこから漂うのは、マッドが好む甘い紫煙の薫り。

 その中に混じる彼の柔らかな体臭に顔を埋もれていると、一度口にして箍が外れたのか、マッドは
 
 欲しいと繰り返す。



「キッド…………欲しい………っ!………っお前が、欲し、っから、早く……っ!」



 泣きながら欲しいと告げるマッドに、サンダウンは眼を細める。もしかしたら、物質的な快楽を求
 
 めて告げた言葉かもしれない。それでも。



 サンダウンはマッドの体内から己の指を勢いよく引き抜いた。その瞬間の内部の擦れに、マッドは
 
 大きく仰け反る。撓る背中を支えてやりながら、ようやくサンダウンが望む言葉を吐き出したマッ
 
 ドの頬に口付ける。

 

「………掴まっていろ。」


 
 誘うように収斂するマッドの秘部に喉を鳴らしそうになって苦笑する。尤も、苦笑いで済まされな
 
 いくらい、サンダウン自身がマッドに煽られてしまっている上、先程の言葉でこちらも限界だ。潤
 
 んだマッドの蕾に、昂ぶりを押し当てる。そして、マッドの身体が強張らぬうちに、最奥まで貫い
 
 た。

 

「んやああああああっ!」



 眼を大きく見開いて叫ぶと、マッドの身体は打ち上げられた魚のように跳ね上がった。だが、その
 
 悲鳴には苦痛の色は何処にもなく、マッドの表情にも恍惚とした色があるだけだ。それどころか。
 
 互いの腹の上に飛び散った熱。サンダウンを受け入れただけで、瀬戸際まで追いつめられていたマ
 
 ッドの身体は達してしまったらしい。蠢く内部に持って行かれそうになるのを耐え、サンダウンは
 
 達したばかりのマッドを責め立てる。
 


「あっ、あっ………んっ!」



 快感だけに責められるマッドは、涙を散らして意識を朦朧とさせながらも必死になってサンダウン
 
 に縋りつく。口付けると、懸命に応えようと舌を絡ませてくる。硬く未熟な実が、赤く染まって熟
 
 した兆しを見せた事に、サンダウンはこの上ない喜びを感じた。マッドの熟れた身体を見たのは、
 
 自分が初めてだ。そして自分を最後にするつもりだ。他の誰にも、渡しはしない。



「ふ……っ、あうっ!あぁっ、だ、駄目、も……っ、キッドっ!」


 
 押さえつけた身体が何度も波打つ。自分の名前を呼んで、早く、と強請る姿にサンダウンも限界を

 感じる。彼の熱が自分に映ったように、熱い。それは決して不快なものではなく、寧ろ、いつも何
 
 処か冷え込んでいた身の内を芯から温めてくれる。
 
 

 ようやく熟してみせた愛しい実を腕の中に抱え込み、耳朶を優しく舌で捉える。そちらに一瞬、マ
 
 ッドの気が向いた隙に、サンダウンは勢い良くその内側を深く抉った。 



「あ、ああっ、あ―――っ!」



 マッドが高く叫んで、熱い内部が激しく収縮した。それにつられるようにサンダウンも、マッドの
 
 中に熱を注ぎ込んだ。



 
 

 

 




 いきなり熟す事を促された身体は、疲れ切ってしまったのだろう。サンダウンの熱を受け入れた後、
 
 マッドは失神するように眠ってしまった。溶けてしまうくらい濡れたマッドの身体を清めながら、
 
 しかしサンダウンはまだ足りないと言うように、その身体に余すところなく跡を刻んでいく。
 
 

 付き合いは長いが、しかし共に在れる時間は短い。今回のように全てを忘れるくらいに溺れ合う事
 
 も、短い逢瀬の中で一体何度出来る事か。こんなふうに雨が自分達の味方になる事は、今後何度あ
 
 るのだろう。断片的にしか逢えないのならば、離れている間にマッドがサンダウンの事を決して忘
 
 れる事がないようにと、徹底的に跡を付けていく。
 
 
 
 所有印を刻んでいると、マッドの身体がふるりと震えた。見れば肌が小さく粟立っている。未だに
 
 雨の恩恵を受けている小屋の中は、しかし同時に冷えている事に、サンダウンは今更ながら気がつ
 
 いた。
 
 

 覚醒段階にあるマッドの身体を床から抱き上げ引き寄せると、やはりいつも通りの熱に満ちた身体
 
 に溜め息が零れた。だが、腕の中に収まったマッドの額に口付けると、まるで逃げるように身じろ
 
 ぎされ、サンダウンは眉根を寄せる。

  

「まだ、早い…………。」



 雨だれが続く荒野は、まだ触れ合う時間がある事を示しているのだ。それなのに、離れようとする
 
 マッドに、まだ何か勘違いしているのかと疑いたくなる。何度か口付けていると、マッドが酷く困
 
 惑したような声で名前を呼んだ。

  
   
「キッド………。」



 掠れた声で名前を呼ぶ様はあまりにも愛おしいが、しかしその声音にやはり何か勘違いしているな
 
 と思う。躊躇いの光を灯した眼差しに、サンダウンは情事の最中に何度も繰り返した言葉をもう一
 
 度囁く。



「お前が、欲しいんだ。」



 それは、お前も同じのはず。現に、囁いた瞬間、その白い顔はみるみるうちに朱を昇らせていく。

 慌てたように顔を伏せて、更に顔を隠すためなのだろうがサンダウンの胸に押し当ててくるのは、
 
 少し何か間違っている気もするが。その可愛らしい様子に、髪に手を差し込んでゆるゆると梳いて
 
 やりながら、しかし容赦なくマッドを追い詰める。

 

「…………お前は?」



 快楽の中でやっと聞く事が出来た言葉。だが、それだけで解放してやるほどサンダウンは優しい人
 
 間ではない。そんな事、マッドも分かっているはずだ。大体、これほどサンダウンの言葉に喜びな
 
 がら、自分では言わないとは何事か。



 サンダウンの思いに気付いたのだろうか。マッドは何やら口の中でもぞもぞと呟いている。その耳
 
 が薄暗い闇の中でも分かるくらい真っ赤になっている。分かりやすい反応に、しかし言葉は掛けず
 
 にサンダウンは背骨を指先でなぞって、口の中でだけ呟いている言葉を声に出すように促す。それ
 
 に観念したのか、マッドは顔は伏せたまま、サンダウンの耳元まで身体を伸ばした。


 
 こくん、と唾を飲み込む音がすぐ傍で聞こえた。



 そして、













「あんたに、どうしようもないくらい、いかれてる。」