「キッド………抱いて、くれ………っ!」
 
 
 
 まるで、どうすれば男を煽る事ができるのか分かっているように、マッドはサンダウンの眼の前で、誘いの言葉を吐いた。

 上気した身体も、濡れた口元も、喘ぐ胸も存分に男を惹きつける。

 それでも、マッドが望んでいないというだけで、サンダウンは彼を抱こうとはしなかった。マッドが楽にして欲しいと懇
 
 願した時でさえ、処理の意味合いを込めて責め立てて終わった。少しでも、マッドが傷つく可能性を減らす為に、顔さえ
 
 見ずに。

 だが、そんなサンダウンの理性を破壊するように、マッドは本来その眼に浮かべているはずの冷徹な色を失って、代わり
 
 に潤み切った視線でサンダウンを煽るのだ。

 しかも、明確な望みの形で。

 望まれて強請られて、涙を流した必死の懇願に、サンダウンが敵うはずもない。

 彼が薬で朦朧として、正しい判断が出来ない事など頭の隅に追いやって、サンダウンはその身体を押し倒した。





Beruhren







「ん…………ぁ。」


 シーツに押し付けた瞬間に震えて声を上げた口に、サンダウンは口付けて素早く舌を滑り込ませた。蕩けるように熱い口
 
 腔内で赤く染まっている舌に、己のそれを絡み合わせて引き摺りだす。

 角度を変えてより深くなる口付けに、マッドは苦しげに眉根を寄せるが逃げ出すつもりはないようだ。尤も、今更マッド
 
 が逃げたからといって、サンダウンは止めてやるつもりはない。

 皮膚が薄い所為か、普段から他の場所よりも体温の高い唇の熱さと柔らかさを堪能し、舌の形をなぞるとくぐもった喘ぎ
 
 が上がった。受け止めきれなかった唾液がマッドの口元から零れ、サンダウンはようやく解放した。口腔を徹底的に犯さ
 
 れたマッドは、サンダウンが離れた時は呼吸をする事に精いっぱいで、身体も力なく横たわらせているだけとなっている。

 その身体のラインを手でなぞると、それだけで快楽として感じてしまうらしく、びくびくと過敏な反応を返してくる。

 縋るような眼で先を促すマッドに、サンダウンはこめかみに一つ口付けを落とした。

 涙が灯っている眼元に唇を滑らせ、その間も身体を指で辿る。



「ん………っ。」



 眉根を寄せて眼を閉ざし、端正な指先が掴んだシーツには艶めいた皺が幾つも走っている。頤に甘く噛みつき、そのまま
 
 首筋に顔を埋めると、シーツと腕で作り上げた檻の中に閉じ込めた身体が戦慄いた。



「あ、ああ………っ!」



 喉仏に噛みつかれて息苦しさを感じたのか、それとも快感が強すぎたのか、ふるふると首を振ってサンダウンを振り払お
 
 うとする。それに従って顔を上げると、安堵したように大きく息を吐く。

 しかし、サンダウンがそれで許してやるはずがない。快楽を逃すためか何度も喘がせている胸の中心で色づいている突起
 
 に、何の警告もなく手を這わせた。



「んあっ!」



 途端にびくんと跳ね上がる四肢。それと同時に、先程三回の絶頂を与えられたはずのマッド自身も硬度を増す。

  
  
「やっ………!あぁっ!」



 つんと立ち上がった色づきを指で摘み、弾くたびに、マッドは仰け反り悲鳴を上げる。悩ましげに身を捩る様は嫌がって
 
 いる事を示しているのだろうが、しかし確実に快楽に悦んでいる。事実、マッドの下肢は触れれば爆ぜそうなくらい反応
 
 している。



「はっ……あ、ひぁっ………ああああっ!」



 薄く揺らめく腰を無視し、サンダウンは指で散々弄られて赤くなった突起を口に含んだ。

 その瞬間、今度こそ身体が跳ね上がり、マッドの口からははっきりと嬌声が上がった。いやいやと首を振り、サンダウン
 
 を引き剥がそうと長い指が砂色の髪に絡む。ほとんど力のないそれは、そんな仕草でさえサンダウンを煽る。



 大体、ひどく長い付き合いだというのに、こんなふうに触れ合う事は一度もなかった。肌を見せ合う事はおろか、髪に触
 
 れる事さえこの夜が初めてだ。

 それもそのはず、自分達は本来ならば決して混じり合う存在ではない。賞金首と賞金稼ぎというだけでなく、世界の熱そ
 
 のものと言って良いマッドと、世界に背を向け弾かれたサンダウンとでは、共にある事さえ罪だ。

 にも拘らず、この夜、マッドが全てを許した所為で、サンダウンは望んで罪を犯すしかない。


      
 胸から腰骨へときつい所有印を付けながら、サンダウンは震えて快楽を求めてやまないマッドの下肢へと手を伸ばす。先
 
 程性急に責め立てた時は、絶頂を迎えながらも嫌がっていたが、今度は嫌がる素振りなど一滴も見せなかった。逆に擦り
 
 寄り、サンダウンを求めようとする。快感を求める為の素振りは、恐らく薬の所為だろうが、それにしても腹が立つほど
 
 男を煽るツボを心得ている。

 
 
「ああ、……んっ!……あ、んあっ!」



 肩を抱いて胸に顔を埋めて、激しく扱くたびにその身が腰を突き出すようにして強請る。裏筋を爪で柔らかく引っ掻くと、
 
 脚の付け根が小刻みに震えた。この行為の前に吐き出した欲と、その後の先走りでとろとろに溶けたその箇所は、てらて
 
 らと光って続きを誘う。分かっていてやっているのではないかと思うくらい、サンダウンが欲しい身体を見せつけるマッ
 
 ドに、サンダウンは弄られすぎて赤く鬱血した胸の突起に浅く噛みついた。すると、マッドの上げる声がいっそう艶を帯
 
 びる。

 痛みすら快楽に置き換える身体は、薬の所為だ。

 濡れた睫毛に縁取られた眼は硬く閉ざされているが、薬に朦朧とした意識の中で眼を閉じて、彼は誰に抱かれているのか
 
 分かっているのだろうか。

 誰と一緒に堕ちているのか、覚えているのか。
 
 

 サンダウンは微かに眉を顰めて、だらだらと液を零しているマッドの先端を抉った。

 
 
「ひぃっ、んやぁああっ!」



 びくんと痙攣した身体は、同時に白濁を吐き出す。

 薬と熱が混じり合って馴染み始めた身体は、短い息を吐いて弛緩しながらも、やはり緩やかに立ち上がっている。これ以
 
 上罪を重ねる気かと何処かで何かが囁いたが、眼の前の身体は苦い思いを丸めこむほど、そそる姿を曝している。薬の事
 
 だとか、マッドが誰に抱かれているのか理解していない事だとか、それらはサンダウンに悔恨の情を抱かせるが、それで
 
 も欲しい。

 ぐったりとシーツに沈み込んだマッドの脇から胸へと手を滑らせると、彼は震えながらその潤んだ眼を開いてサンダウン
 
 を映した。その拍子に零れ落ちた涙が濡らした頬に手を添え、まだ息の荒い口を塞ぐ。深く口付け、マッドがそれに意識
 
 を向けている間に、形の良い脚を割って逃げる事が出来ないようにその間に身体を滑り込ませる。

 
 
「んんっ……あ……っ!」



 柔らかい内腿をなぞっていた両手が膝裏に移動したかと思った瞬間に、いきなり膝が胸に付くほど身体を折られ、マッド
 
 は咄嗟に逃げを打った。だが、それは既に遅すぎる反応で、挙句サンダウンが許すはずもない。体重を掛けてマッドの動
 
 きを封じると、普段決して見る事のない彼の秘部を眺める。背骨からすっと続く滑らかな双丘の間で、触れられてもいな
 
 いのにほんのりと染まっている無防備な蕾に、サンダウンは無言で舌を進めた。



「ひっ!やめっ!」



 マッドが求めてから、初めて拒絶の言葉を吐く。

 だが、揺らめく腰がその言葉が偽りである事を示す。


 
「ああっ!いやっ、も、あっ……っ。」



 揺らぐ腰の奥で、サンダウンの舌を受け止めるそこは、マッドの声とは無関係に少しずつ解れていく。誘うようにサンダ
 
 ウンの舌を締め付けて、奥へと引き込もうとし始めてようやく、サンダウンは顔を上げた。

 
 
「んあ…………。」



 その時には、嫌がっていたはずのマッドの口からも、触れられていた感触がなくなった寂しさからか、切ないような声が
 
 上がるようになっていた。それに応じてひくつく後孔に指をひとりと押し当てると、欲しがるように蠢き始める。



「ああ…………。」



 押し当てられた指が欲しいのか、マッドの腰は揺れ動き、首を振るたびに甘い吐息を散らす。自ら動いてサンダウンの指
 
 を自分の中へと導こうとするマッドに、もはや理性などないのだろう。快楽を望むがままに痴態を見せるマッドに、サン
 
 ダウンがいる事を感じる余裕などないはずだ。それがサンダウンの中に蟠りを生む。

 だが、眼の前にある身体が欲しい事に変わりはなく、欲望のままに――同時に僅かな怒りを込めて――解れた、しかしま
 
 だ狭い彼の中へと指を突き入れた。



「く、ぅ――――っ!」



 一気に突き刺された楔に、マッドは大きく眼を見開く。

 だが、サンダウンはそれを無視する。

 というよりも思い遣ってやる余裕がない。

 無理やり入り込んだマッドの中は、想像していた以上に熱くて心地良く、いつも自分に向けられていた熱など足元にも及
 
 ばない。腰を捩って逃げようとするのを掴み、震える彼自身に口付け、手よりも濃厚な愛撫を加えてやる。不規則に何度
 
 も揺れるようになった腰が体内へと振動し、マッドの内部も収縮を始める。サンダウンの指に絡みつき、離れまいとする
 
 そこから一度抜いて指を増やすたびに、マッドは声を上げる。



「は!んぅっ、も、やめ……ぁ―――。」

  
 
 太腿を震わせ、次から次へと滴を零す先端が、マッドが再び絶頂へ向かっている事を教える。

 だが、今回はそう簡単に解放させてやるわけにはいかない。

 サンダウンは優しく吸い上げながらも、その根元を指で締め上げる。



「くぁっ!」



 苦しげに歪むマッドの表情。

 それでも指でマッドが感じる所を強く押し、前を甘噛みすると、マッドの喉からは悲痛な声が漏れる。

 
 
「いや、だ、……っああああ!もぅ、……――っ!」



 痙攣にも似た反応で締め上げるそこから、名残惜し気に指を引き抜く。

 引き抜かれた衝撃で跳ねる身体と、そして入られる事を求めて収縮する赤い秘部に、否応なしにこの先の事を考えてしま
 
 う。



 薬の所為でも良い。

 薬に犯されて、救いを求めてサンダウンに手を出したのであっても良い。

 マッドが、サンダウンが同情で彼を抱いたのだと思えば、尚良い。

 処理の性急さを嫌がった理由までは知れないが。

 そもそも、本来ならば自分達の関係には必要のない湿っぽさだ。

 だから、この一夜だけで良い。



 大きく脚を押し広げ何もかもを曝け出したマッドの、サンダウンによって熟した蕾に、サンダウンは己の昂ぶりを押し当
 
 てる。いつもより甘い色を灯した髪をシーツに散らしたマッドは、高められすぎた熱を持て余して、むずかるように身を
 
 捩っている。そして押し当てられた熱に、再び身体を反応させている姿に、サンダウンは一気に貫いた。



「う、あああああああっ!」



 解された、しかし誰も知らない場所にまで、遠慮なく突き進む塊に、マッドの背が撓った。絶妙の線を見せた顎から胸の
 
 仰け反りに、サンダウンは思わず噛みつく。その間も、突き進む身体は止めない。



「ふ……っ、く、あうっ!」



 奥までサンダウンを迎え入れたマッドは、呆然として視界を虚空に漂わせている。だが、サンダウンは突然の衝撃に追い
 
 つかないマッドを置き去りに、その身体を揺さぶり始めた。

 瞬間、仰け反る身体。

 眉を顰め、口を開き、理解出来ぬままに声を溢れさせるマッドの奥は、サンダウンが出て行こうとすれば引き止めるかの
 
 ように吸い付き、突き上げると抵抗するかのように締めつける。それに加えて、心地良い熱で溢れかえっている。



「うぁあっ!あ、あ、ああぁっ!」



 しかも視界には、どうしようもないくらい悩ましげな媚態を曝す姿が入っている。 赤く上気して濡れた胸も、ぼたぼた
 
 と蜜を零す雄も、快楽に歪む顔も、まるで、男を煽る為の道具としか思えない。そして、マッド自身は、自分の身に何が
 
 起こっているのか、誰が此処にいるのか、その切欠がなんだったのか、全て記憶の果てに吹き飛ばしているだろう。

 

 それでいい。

 マッドが、サンダウンが何を考えているのかなど、知る必要もない。

 他の男よりもその身体が欲しいと思い、それどころか意識さえ欲しいと考えている事など、気付かなくて良い。

 

 息を吐く余裕さえ与えずに責め立てる。 受け止めきれない快感に、マッドの手が救いを求めるように空を掴む。その手
 
 を肩へと導き、最後の快楽を与えようと腰を打ちつける。ぎりぎりまで引き抜き、一気に最奥に叩きつけた。

 
 
「――――――――っ!」
 


 声にならない声が上がり、マッドの内部が激しく収縮した。その動きに引き摺られるように、サンダウンもマッドの中に
 
 熱を放つ。ぐらりと傾いだマッドを抱き寄せた瞬間、ぎくりとした。

 意識を手放す直前のマッドの口が、小さく呟く。

 どこか朦朧とした眼には、しかし静かに冷然とした光が瞬いていた。







「――――――――――キッド。」