一気に、指とは比べ物にならないほどの質量を持った剛直に貫かれ、マッドは限界まで身体を逸
 らせ、肺から呼吸をすべて吐き出す。凍りついて、指先まで感覚のなくなったマッドの身体は、サ
 ンダウンに抱き締められてようやく呼吸を取り戻した。
  マッドを貫きながら背後から抱き締める男は、熱っぽい声でマッドを何度も呼ぶ。しかし、マッ
 ドにはそれを聞き届ける余裕はない。押し広げられた狭い内側から血の匂いがして、自分が薄い皮
 袋に成り下がったような気分だった。

 「マッド、………。」

  声と同時に揺さぶられる身体は、苦痛に泣き叫ぶ。だが、サンダウンは止めようとしない。マッ
 ドの雄を弄びながら、マッドの秘所を支配する。
  痛みと快感が同時にせり上がり、マッドは仰け反って乱れるしかない。それを見たサンダウンも
 マッドに腰を打ちつけ、欲望の先端を抉る指を止めようとしない。

 「いや、あ、あ、あ、あっ!」

  強い力で突き上げられ、マッドは泣き叫ぶ。自分が、今、痛みを感じているのか、快楽を感じて
 いるのか分からない。ただ、身体を支える腕が何よりも力強くて、凌辱されている事を忘れて、縋
 りつきそうになるほど安堵する。
  もう何を考えて良いのか分からないまま、マッドは声を張り上げ、涙を零し続けた。




  Love Bite6





  追いかけてきたマッドが悪いのだ。
  あからさまに嫉妬しているサンダウンに気付かず、何の戸惑いも見せずに追いかけて、平気で触
 れてくるなど、肉食獣の前に身体を投げ出している事と同義であると分からないのか。しかも、そ
 の癖、サンダウンがマッドを捕えようとすれば逃げようとする。そんな身勝手な男に腹が立った。
 だから、半ば怒りに、後の残りは欲望に任せて、身体を覆っている邪魔なものを引き裂いて、眼の
 前に広がる身体に貪りついた。
  震えながら抗議するマッドには、確かに怯えが見え隠れしていた。怯えて当然だと思いながらも、
 更に苦痛を与えて抵抗を奪う。
  露わにした肌は、怯えて震えているにも拘わらず、やはり温かかった。そこに口付けを落として
 いると、そんな事までは許していないとマッドが言う。それを聞いて、サンダウンは眉を顰める。
  ならば、マッドは何処まで許していたというのか。激しく抱擁して、何度も濃厚に口付けた。そ
 れでもマッドは逃げなかったし、いつものように追いかけてきた。なのに、今更、それは違うと言
 い募る。
  冷静に考えれば、マッドの言い分は尤もだ。口付ける事と、肌を見せ合う事に一線を引く者は多
 い。
  けれど、今のサンダウンにそこまで斟酌してやる余裕はない。嫉妬と、マッドが僅かにでもサン
 ダウンから逃れようとした事への焦りからか、腹の底で嗤う魔王が気配を濃く噴き上げている。そ
 れを押え込む為には、マッドに縋るしかない。だが、当のマッドが、サンダウンに触れられる事を
 嫌がる素振りを見せて、サンダウンの焦りは深くなるばかりだ。
  だから、ろくに慣らしもしていない、初めて男を受け入れるのであろうその部分に、性急に自分
 自身を突き入れた。その間際に、小さく、寒いとだけ囁いて。そう言えば、マッドは大抵の事は許
 してくれる事を知っている。果たして、指で内部を掻き混ぜられて、ぐったりとしているマッドは、
 ようやく薄っすらとサンダウンの姿を捜すような素振りを見せた。
  本当に僅かだが、マッドがサンダウンを探し求める姿を見せた事を良い事に、サンダウンはそれ
 を許しと受け止め、まだ狭いマッドの中に無理やり入り込む。
  瞬間、マッドのしなやかな背中が、弓なりに仰け反った。何かを吐きだそうとするかのように大
 きく開かれた口からは、声にならない声が迸って、しかしそれは全て音にならず大量の空気として
 吐き出される。
  サンダウンも、あまりにもきつい締め上げに眉根を寄せる。だが、それ以上にマッドの中の熱さ
 に何もかもを持っていかれそうだ。
  痛みに硬直するマッドを撫でながら、サンダウンはゆっくりと腰を動かす。途端にマッドの身体
 は跳ね上がり、痛みを訴えて涙を零す。繋がった部分からは血が滴り落ちて、マッドに如何に負担
 を掛けているかを知らしめる。
  だが、サンダウンはそれでマッドを解放してやるつもりはなかった。怯えて震えるマッドなど、
  サンダウンも見た事がないもので、それは欲を煽るには十分だった。しかしそれと同時に、サンダ
 ウンが抱き締めると安堵したかのように身を委ねてくるマッドに庇護欲をそそられる。
  弱者の姿をしたマッドを、もっと苛めてやりたくもあり、優しく労わってやりたくもある。 

 「キッド、いや、も、……抜いて、くれ………。」
 「マッド…………。」

  弱々しいマッドの懇願に、サンダウンは容赦なく突き上げながら、熱の籠った声でその名を呼ぶ。
 痛みに立っていられない身体を支えてやりながら、綺麗な項に顔を埋め、何度も口付けを降らせる
 と、マッドの身体がぴくんと跳ねる。感度が良い事は、今までの逢瀬で知っている。だから、痛み
 を散らす為に、何度も何度も、項や耳、肩甲骨に口付ける。

 「あ、ああ………苦しっ…あぅ、」

  マッドの声は、所在のない怯えに満ちていた。どうやら痛みと快感に同時に責められて、処理の
 つけ方が分からないらしい。未知の感覚に恐怖している、まるで子供のような姿に、サンダウンは
 抱き締める腕に力を込め、耳元で囁く。

 「大丈夫だ…………。」

  これは、サンダウンが、魔王が、マッドを、勇者を求めているだけの事。魔王が勇者を求める事
 は、水が高い所から低い所へと流れるのと同じで、ごく自然な事。だから、何も怯える事などない
 のだ。マッドは、何も考えずにサンダウンに任せていれば良い。
  サンダウンはマッドを安心させるように、一度ぎりぎりまでマッドの中から自身を抜く。安堵に
 身体から力を抜くその背中に唇を這わせ、そちらにマッドが気を向けている間に、再び深く突き入
 れる。

 「ああっ!」

  安堵を裏切られて、マッドは悲痛な声を上げる。そこに先端への刺激を加えてやると、マッドは
 身をくねらせる。しばらくの間、腰は動かさずに雄だけを可愛がってやると、先程まで快感を感じ
 ながらも恐怖で萎えていたマッドの雄は、ゆっくりと硬さを帯び始めた。

 「う、っあ、いやっ…………。」

  か細い声を上げるマッドの顔は、何の力も持たない幼い少年のようだ。蹂躙されるのを待つだけ
 の細い身体を見て、その光景を見る事が出来るのは自分だけだという優越感にサンダウンは浸る。
  くるくると先端をなぞり、マッドの身体をびくつかせ、彼に快感を与え続けていると、苦痛で強
 張るだけだったマッドの秘部が、徐々に解れ始めた。そこをもっと柔らかくする為に、サンダウン
 は根元を強く握り、その状態のまま先端を人差し指の爪で深く抉った。

 「ひぃっ、いぁああっ!ああぅっ!」

  首を激しく打ち振るうマッドのそこは、与えられる刺激と達けない苦しさで、あっと言う間に限
 界まで反り返った。だが、サンダウンは愛撫の手を止めず、マッドに甘い声を上げさせる。

 「んやぁああっ!やめっああああっ!」

  言葉もろくに紡げないマッドの様子を見て、サンダウンは程よく溶けたマッドの内部もあり、再
 び腰を動かし始めた。再開した内部を蹂躙する動きに、しかし今度はマッドの口からは、苦しげで
 はあったが痛みを訴える色はない。

 「はぁあああっん!」
 「熱い、な………。」

  柔らかくなったマッドの内部は、先程よりも更に熱くなっている。心地良くて、思わずそう零せ
 ば、マッドはそれを否定するかのように首を振る。

 「やだっ、やっ………ああああっ!」

  ぐにぐにと内部を弄られて身悶えるマッドの身体が、ある一点を貫かれた瞬間に、よりいっそう
 激しい悲鳴を上げた。

 「ここ、か………?」
 「そこ、やめっ、くぁぅ!」

  苦しげだった声も、切なく絶え入るようなものに変貌し、マッドの白い肌もほんのりと桃色に染
 まっている。汗が塗された肌は、マッドが喘ぐたびに艶めかしく光る。 

 「マッド………。」
 「はぅぅうっ!いや、もぅ――ああぁぁあっ!」

  達けないように根元を押さえ込まれたままのマッドは、悶えるように泣く。奥を突くたびに、サ
 ンダウンの手の中にあるマッドの欲望は、びくびくと震え、限界を訴えている。それを無視して、
 握り込んだままマッドが感じているところを重点的に攻めていると、マッドの声がしゃくり上げる
 ものに変わった。

 「ひぃ、やだっ………ふああああっ、あ、やめっ、い、いぁああっ!」

  眼も焦点が定まっていない。どうやら、初めて与えられる快感と、それまでの痛みによってマッ
 ドの体力が底を尽きかけているようだ。

 「も、もぅ、許しっ………!」
 「ああ………達け。」

  戦慄くマッドの唇に優しく口付けて、サンダウンは最後に深くまで突き入れ、同時に握り締めて
 いた手を離し、強く擦り上げてやる。

 「ああぁあああん──────っ!」

  甘い悲鳴を上げて痙攣するマッドの身体を抱き締めて、激しく収斂する秘部の動きが与える刺激
 に従って、サンダウンもマッドの中に熱を吐きだした。
 
 
 
 
  どうしようか、と今更ながらサンダウンは思う。
  意識のないマッドを安宿に運び、その身体を清拭してやった後、彼の閉じた眼を見て自分が何を
 しでかしたのかに改めて頭を抱えた。している最中はその熱に溺れていたのだが、彼の秘部から零
 れた血の赤と自分が吐き出した精液は改めて見れば生々しく、正直なところマッドがこの行為を許
 してくれるかどうかは怪しい――普通に考えれば許してくれるわけがない。
  それでも、ベッドに横たわるマッドの上に圧し掛かっているサンダウンは、何処かでマッドが許
 してくれるだろうという甘い期待を抱いている。それに、マッドがサンダウンを許さずに、このま
 ま二度と逢わないと言ったところで、サンダウンがそれを甘受できるはずもない。マッドの熱を受
 け取って今は大人しく眠っている魔王は、いつ何時眼を覚ますとも知れず、それを封じる事が出来
 るのはマッドだけだ。
  もしもマッドがサンダウンを許せないと言うのなら、その時はサンダウンを見放すのではなく、
 サンダウンを撃ち殺して欲しい。
  そんな、もはや手前勝手この上ない事を考えて、マッドの身体の上に乗りかかって抱き締めてい
 ると、腕の中のマッドが身じろぎした。

 「ん…………。」

  小さく呻いて、眼を開くマッドのその黒眼を覗きこめば、マッドは不思議そうにサンダウンを見
 る。ぱちぱちと瞬かせる彼は酷くあどけなく、そっと頬に口付ければ、あ、と小さく声を上げた。

 「は、なせっ!」

  ようやく自分が何をされたのか思い出したマッドは、圧し掛かるサンダウンを引き剥がそうとす
 る。だが、犯された後の身体はほとんど力が入っておらず、サンダウンを押しのける事は叶わない。
 サンダウンは力のないマッドの身体をベッドに縫い止め、その耳を舌先で舐めとる。

 「………嫌、だったか?」
 「当たり前だろうが!男に犯されて俺が喜ぶとでも思ってんのか、てめぇは!」
 「………もう、私を、追いかけないか?」

  途端に、マッドの眼が大きく見開かれ、信じられないものを見るかのような眼でサンダウンを見
 る。そして、口から低い声を零す。

 「てめぇ………その為に、俺を犯したのか………。」

  きゅっと吊り上る眦には、凌辱されていた時にあった怯えも快感も見当たらない。あるのは沸騰
 するような怒りだけだ。

 「その為に、俺をあんなまどろっこしく抱き締めたりして、俺があんたのする事に警戒しないよう
  にしたってのか。それで、俺の警戒がなくなった時を見計らって、犯したってのか。俺が、あん
  たを追い掛けるのを、止めさせる為に!」
 「違う…………!」

  恐ろしいほどの勘違いに、サンダウンは慌てて否定するが、マッドの怒りは収まらない。竜の火
 炎のように怒りを吐き出し、サンダウンを睨みつける。

 「そんなに俺に追いかけられるのが嫌だったってか!?だったらなんで、さっさと殺らなかったん
  だ!こんな手間かけなくても、撃ち殺せばいいだけじゃねぇか!それとも、俺を辱めるほど、俺
  が嫌だったのかよ!」
 「違う。」
 「うるせぇ、何が違うってんだ!殺すよりも、こういう事をして止めさせる事を選んだのは、てめ
  ぇだろうが!」
 「…………マッド。」

  取り付く島もないマッドの様子に、サンダウンは途方に暮れる。単に、マッドに触れたかったの
 だと言ったところで、果たしてマッドは信じるだろうか。もっと早く告げていれば、呆気にとられ
 ながらも受け入れたかもしれないが、今の状態では火に油を注ぐだけだ。
  打つ手のないサンダウンは、どうする事も出来ずに、怒り狂うマッドを見下ろす。見下ろされた
 マッドは、ぎりぎりと歯噛みして、唸るように言った。

 「………ふざけんなよ、誰が、諦めてやるかよ。」
 「…………?」
 「てめぇがその気なら、こっちは意地でも諦めてやらねぇからな!地獄の果てまで追い掛けてやる
  ぜ!」

  覚悟しやがれ。
  そうマッドが叫んだ瞬間、サンダウンはその意味を理解してマッドに抱き付いた。そしてその顔
 中に口付けを落とす。
  突然のサンダウンの行為に、マッドは叫んだ状態のまま、ぽかんとする。

 「は?おい!何すんだ、てめぇは!こんな事したって、俺はてめぇを諦めたりしねぇぞ!」
 「……………マッド、そうか、許してくれるか。」
 「許す?一体、何の話を………。」
 「マッド…………。」

  ちゅ、と唇に口付けて、サンダウンはマッドの首筋に顔を埋める。
  マッドはと言えば、何かおかしいと思っているようだが、一体何がおかしいのか分かっていない
 ようだ。だが、サンダウンはそれで良いと思う。憎しみでもなんであっても、マッドがサンダウン
 を見放さずに追いかけるのならば、それで良い。

 「くそっ!てめぇ、いつか必ず撃ち殺してやる!」
 「ああ………。」

  ぎゃあぎゃあと喚くマッドの声を楽しみながら、サンダウンは安堵する。マッドは何も知らない
 のだろうが、その死の確約が、どれほどサンダウンにとって喜ばしいか。それは、死の間際までサ
 ンダウンと共にいるというのと同義なのだ。

  怒れ、憎め、そしていつか殺しに来い。
  サンダウンにとって、それ以上の許しはない。