は?どれくらいずっと同じ重いのを持ってられるか?
  え?違う?
  どれくらいずっと同じ思いを持ってられるか?
  ああ、トレーニングの話じゃねぇのか?何だ、てっきり、重量挙げの話をしてるんだと思ったぜ。
 あれだろ、要するに、どれだけおんなじ事を考えてられるのかって事だろ?
  ちょっと違う?違うのか?もうそれで良い?良いんなら、それで良いよな。
  それで、ずっとおんなじ事を考えてられるかって話だよな。
  うーん、そうだなあ……。腹が減ってる時なんかはずっと飯の事ばっか考えてるし、トレーニン
 グしてる時はそれに集中してるしな。うん、そうだな。やっぱりトレーニング考えてる時間が一番
 長いんじゃねぇの?
  え?やっぱり違うから、ちょっと言い直すって?
  一つのものについて、ずっと諦めずにいられるかって?
  そりゃあ、当たり前だろ。俺はずっと最強になりたくて此処まで来たんだからな。今更諦めるな
 んて、最強のする事じゃねぇよ。時間なんか関係ねぇな。どれだけ時間がかかっても、最強になる
 には長すぎるなんて事はねぇ。
  それが、特定の人にも当て嵌められるかって?そいつが最強の座を持ってるってんなら、何年か
 かっても追い続けるぜ、そりゃ。
  ん?変な顔してるけど、なんか俺、変な事言ったか?もう良いって?
  ふーん。




  む……特定の誰かをずっと思い続ける事が出来るか、と?
  ふむ、出来ぬ事はなかろう。
  拙者とて一人の君主に仕える身。それはこの身が朽ち果てるまで、決して揺るがぬ事実。
  それに、遥か昔――拙者よりも何代も前の祖先に至っては、それこそ一族総出で一つの血筋に忠
 誠を誓っていた事とてある。それは正に、数百年と続く思いとは言えまいか?
  まあ、数百年の間に、それもまた失われていったのも確かではあるが……。
  だが、拙者の坂本殿に対する忠誠は、数百年前の先祖達にも勝るとも劣らぬ。
  拙者が死しても……否、拙者が死に、この首が地に落とされようとも、坂本殿に仇なす者は、例
 え首だけになったとしても、その首を食い千切ってみせよう。
  それは、何が起ころうとも決して変わらぬ。
  ぬ……?恋に置き換えてみるとどうか?
  拙者と坂本殿は忠義で繋がっておる故……。
  婦女子に対して、末永く恋焦がれ続ける事が出来るか?
  む……そのような事は妄りに口にすべき事ではないのだが……ただ、拙者の国において、婦女子
 は夫に対して貞操を捧げるもの。他の男に恋をするなど有り得ぬ。共に連れ添うと決めたのなら、
 数百年と言わず、千年もの時さえも寄り添うべきだろう。
  おぬしの言う、一万年と二千年という時でさえ。




  一万年と二千年?
  ちょっと、それがどれだけの時間になんのか、想像出来ないね。まして、それだけの長い間、変
 わる事なく同じ事を想ってられるかなんて。
  だって、あたいはまだ十年とちょっとしか生きてないわけだけど、その間にも色んな事があった
 もんだよ。あたいと同じような境遇の親のない奴らと身を寄せ合って生きてたり、なのに、そいつ
 らに騙されて盗みの罪を着せられたり、結局そのまま盗賊として生きるしかなくってさ。
  あのままだったら、多分ろくでもない生き方をしてろくでもない考えにどっぷり浸ってただろう
 けどさ、けど、そんな時に爺に逢って、拾われて。
  勿論最初は、あんな爺さっさとくたばっちまえって思ったよ。一緒に拾われてた奴らだってさ。
 ユンなんか臆病ですぐに泣くし、サモは食事の事ばっかでやっぱりすぐに泣き言を言うしさ。なん
 でこんな奴らと、って思ったさ。
  でもさ、サモは馬鹿でのろまだったけど人の悪口なんか絶対に言わなかったし、ユンは臆病で泣
 き虫だったけど弱音は吐かなかったね……。多分、だからあたいも修行に耐えられたんだと思うよ。
 以前のあたいなら、すぐに逃げ出してた。
  ほら、そう考えたら、一つの想いをずっと貫くなんて無理じゃないか。あたいはこんなにあっさ
 りと考え方を変えちまったんだから。
  ああ、でも、そうだね。
  あいつらといて良かったなあって思うのは、この先二度と変わらないだろうね……。

  

  
     あー、まあ、そうだな。それって確かに未来永劫のロマンだよな。一万年と二千年前からずっと
 ってのは。
  でもよ、人の心なんか、そりゃあ信じられないくらいコロコロ変わるぜ?特にオンナゴコロって
 のはよ。よく言うじゃねぇか、オンナゴコロはなんとかって。正にそれだ。人の心を読んできた俺
 が言うんだから、間違いないって。
  それに冷静に考えりゃ、一万年と二千年なんか人間生きてねぇって。仮に生きられたとしても人
 生八十年の中で、一体どれだけの人間が初恋を叶えて――まあ、初恋じゃなくても、最初に、例え
 ば、キス?した奴とずっと付き合って、結婚して、子供産んで死ぬまで一緒にいるってんだよ。
  お前、この国の現在の離婚率、知ってるか?
  あと、未成年の結婚前の、その、エッチしてる割合とか!
  だから、そういうのを考えると一万年と二千年ずっと一人の人間をって言うのは、ファンタジー
 なんだよ、お伽噺なんだよ。
  ああ、それ以上にロマンでもあるよな、男としちゃあ。男は有り得ねぇもんに惹かれるからな。
 そりゃそうだろ、付き合ってる子が自分が初めての男とかだったら、萌える、もとい燃えるだろ、
 男として。
  でも、基本的には有り得ねぇんだって。
  だから、ロマンで、歌にもなってんの。




  ……一万年と二千年?それは、黙示か何かに出てくる言葉か?違う?……そうか。
  ふむ。確かに一万年と二千年ずっと一つの事を想い続けるというのは難しい。私も、人の心変わ
 りは幾つも見てきた。それを思い出すたびに、変わらぬものというものはないのだろうと思い知ら
 される。
  人間であろうと、人間でなかろうと。変わらぬものなど、この世にはない。
  だが……そうだな……。
  変わってしまっても、それでも続いていく事、というのはあるのではないか、と最近思うように
 なってきた。
  お前が特に人の心の変容について言っているのなら、人の心は変わってしまっても、変わってし
 まったなりに、何か続いていく事があるのではないかと思う。
  人の心が変わる事を止めるのは、誰にも出来ない。そうだろう?人を愛すのも、憎むのも、心の
 変化によるものだ。それが止まるという事は、即ち人ではなくなってしまうという事だ。人である
 のなら、心の変わりを止める事は出来ない。心の変容は、人の命の瞬きそのものと言っても良い。
 その瞬きを止めるなど、愚の骨頂だ。
  私は、変化を続けていって、その果てを私に見せてくれると言うのなら、それでも良いと思う。
 一万年と二千年という間、ずっと私を見てくれる必要はない。連続である必要は何処にもない。
  ただ、変化の一点一点を繋げていったその先に、私の所に再び辿り着くというのなら、ずっと私
 を想ってくれている必要はない。
  どんな形の想いを抱えていても、最後には私を撃ち抜くのだ、と。
















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