「話せば長くなる」
「手短にな」

 サンダウンキッド、もとい茶色い自称サンタクロースは、何故このような事態―目を背けたくなる
ような、というか目を会わせたくない―になったのか、頼んでもないのに話し始めた。
 別に頼んでねぇ、と言おうかとも思ったが、だからといって話すのを止めるような殊勝なところが
ある男ではないことは重々承知しているマッドは、己の余計な労力を費やすことは諦めた。代わりに、
冗長にならぬようにと注文を付ける。

「一年前の事だ、私が赤い老人に出会ったのは」

 重々しいサンダウンの声に、マッドは腹の中で、向こうはあんたのことを茶色い男だと思ったろう
よ、と呟く。
 その茶色い男は、いつものテンガロンハットではなく、サンタの被る帽子の茶色バージョンを被っ
た状態で、いつもの無表情のまま語り始めた。

「老人は後継者を探しているのだ、と言った」
「へぇ」
「それに相応しい人物を探しているのだ、と」
「はあ」
「そして、どうだ、お前が良ければやってみないか、と言われた」
「…………」

 後継者を探している、から、サンダウンをスカウトするに至るまでの工程が、幾つかすっ飛ばされ
ている気がするのは気のせいか。そうでなければ、一目見ただけでサンダウンを後継者に選ぶと決め
たかのようではないか。
 サンタクロースの、後継者に。

「そして、この衣装を手渡され、私はこうしているのだ。」
「それ、からかわれてるんじゃねぇの?」

 でなければ、サンタクロースになれるとかいう詐欺だ。その詐欺に、どれだけの意味があるのかは
分からないが。

「一応、去年のクリスマスに仕事はした。」

 仕事って、あれか。
 マッドはうすら寒い気分のまま、思う。子供にプレゼントを配るっていう、あれか、と。
 別に興味があったわけではないが、目の前の賞金首が騙されてサンタクロースの恰好をしているの
ではないかという疑問を確実にするため、マッドはその仕事内容を聞いてみる。

「仕事ってどんなだ。やっぱりあれか。橇に乗ってプレゼントを配るのか。」

 すると、サンダウンは首を横に振った。

「雪が降っていないし、アメリカ西部にトナカイはいないからな。普通に馬に乗って配った。」

 やっぱり詐欺じゃね?
 マッドは、馬に乗ってプレゼントを配るサンタクロース、もといサンダウンを想像して、要するに
地元のクリスマスイベントでサンタ役をやっているおっさんだな、と思った。
 というか、サンダウンはうまいこと乗せられて、そういうイベントに参加しただけなんじゃないだ
ろうか。なんでサンダウンに白羽の矢を立てたのかは分からないが、もしかしてヒゲという見た目で
選ばれた可能性もなくもない。
 問題は、どうして赤の衣装ではなく、茶色の衣装を手渡されたのか、だが、それもよくよく考えて
みれば、サンタの恰好は別に赤とは決まっていない。緑とかの衣装をいるサンタもいるし、地域によ
っては茶色のところも。
 いや待て。
 マッドはふと思いついて、サンダウンに問う。

「あんた、それは本当にサンタクロースであってんのか。」
「そうだ。私はサンタクロースだ。サンダウン・キッドではない。」
「そういう意味で聞いたんじゃねぇよ。」

 頑なにサンタクロースであるというサンダウンに、マッドは首を振る。
 きっと、このおっさんは知らないのだ。サンタクロースは二人いるという伝承があることを。片方
は良い子にプレゼントを配る、所謂普通のサンタ。もう一人は悪い子をお仕置きする茶色、または黒
いサンタだ。
 サンダウンが頼まれたのは、もしかしたらそちらの茶色いほうではないのか。

「違う。」

 しかし、サンダウンは自信ありげにマッドの仮説を否定した。

「私が前任者から任されたのはプレゼントを配ることだからな。」
「…………。」

 もはや、ああそうかい、としか言えない。サンダウンは何としてもサンタクロースであると貫くつ
もりのようだ。別に、だからといって今のところマッドには害はなさそうである。それだけが幸いだ。
 しかし、

「で、そのサンタウンが、俺の家に何の用だ。」
「サンタウンでもサンダウンでもない、サンタクロースだと何度言ったら。」
「へいへい。で?俺にプレゼントでもくれるってのか?」

 むろん、期待はしていない。
 目の前のサンタクロースも何も準備していない。
 要するに、ただの不法侵入者と見做して問題ないだろう。しかもサンタクロース曰く、自分はサン
ダウン・キッドではないのだそうだから、腐れ縁としての義理も情もないわけで。つまり、この場で
撃ち落としたとしても、マッドには何の問題もないわけだ。
 再びバントラインを取り出すマッドに、サンダウンは、待て待て、と宥めに入る。

「マッド、私は今、サンタクロースの試用期間だ。」
「それがどうした。」
「正式なサンタクロースになるには、一年の試用期間を経る必要があるのだ。」
「だからどうした。」

 働いてんのはクリスマスシーズンだけじゃねぇのか、と思ったが、面倒だから口にしなかった。

「試用期間中は、給料が出ない。」
「ブラックだな、おい。」
「それで。」

 きゅううううううう。
 サンダウンの腹の虫が鳴った。

「ごはん。」

 いつものサンダウンの台詞である。